HOME > ナレーターたちの物語 > 声優ミゼラブル > 第15幕・ガンバルジャン「バルジャンの飛翔」

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声優ミゼラブル15話・ナレーターメルマガ

2009年5月7日 ナレーターメルマガ111号より転載


前回は、小さいガヤの現場での「おみやげ坂クンタキンテ」との出会いを書きました。
まばゆいばかりの才能で、事務所から「すぐに所属でいいよ」と言われているのに、自ら養成所で学んでいる、プレイだけでなく人柄までもできたヤツ!おみやげ坂はまさに声優界を飛び回る彗星のごとき新人でありました!

一方私はというと…唯一の台詞「プレイボール」すら噛んでる有様。そこで私は気づいたのです。そこには深い「声優コーラスライン」が横たわっている…
ヒッキーの時もそうだった。そして今回も私は「ガヤ・コーラスライン」を飛び越えられなかったのだ…と。

そして唯一の味方、若手マネージャー「小豆地(こまめち)さん」に救いを求めて電話すると、『ガンバルジャンはナレーターをやってみたら?ナレーションでは声や表現にも説得力が出るのは30代からだから』という何気ない一言。それともう一つ小豆地さんから衝撃の一言。「実は俺。マネージャーを辞めることにしたんだ・・・」
事態は激流のごとく、どこまでも私を翻弄するのでした。

ただ待つだけじゃない。攻めていくんだ

声優からナレーターへ・ガンバルジャン「実は…今度子どもが生まれることになって、もうやっていけなくなったんだよ。ガンバルジャンにはわからないかもしれないけど、大手事務所でもマネージャーの給料なんて、ひどいもんさ。これまで歯をくいしばって堪えてきたけど…」
「そうだったんですか…知りませんでした」
「それに俺たちがどんなに走りまわっても『売れればプレイヤーの力、売れなきゃマネージャーのせい』って、呆然と口を開けて仕事を待ってるだけのプレーヤーに言われてね…やりきれないよ。それでこの薄給じゃ、未来が見えないさ…」

こんなダメな私に目をかけてくれていた小豆地さん。新人にとってマネージャーは仕事をくれる神のように思っていた。でも同じ人間で、同じようなことに苦しみ、戦い踏ん張っていたのでした。思えば当たり前のことだった。そんなマネージャー個人の未来のことなど考えてもみなかった。自分のことしか見えていなかった。いや自分のことさえも見えていなかったのだ。私も『口を開けて待っているだけ』のプレーヤーの一人だった。

「じゃあな、ガンバルジャン。お前はナレーションにまだ可能性がある。ただ待つだけじゃない。攻めていくんだ」

そう言って小豆地さんは電話を切ったのでした。最後まで、私を応援してくれながら。
”声優への夢”との決別では流れなかった涙が、この時ばかりはしずくとなってこぼれ落ちました。

一本の仕事が『つながった』瞬間でした

そして私は、翌日からナレーションの猛特訓を開始しました。
もちろん自分の未来を自分で作り出すため。そして小豆地さん最後のアドバイスを生かし、口を開けて待っているだけのプレーヤーにならないために。

毎日テレビを研究し、ボイスサンプルを作り、マネージャーたちに聴いてもらう。最初はおっくうそうに受け取っていた事務所も、何度かプレゼンをしているうちに「ガンバルジャンはきちんとナレーションを勉強している」と認知してもらいだし、やがてポツリ、ポツリとですが、こぼれた仕事を振ってもらえるようになっていきました。現場ではスタッフさんにCDを手わたし、ナレーションへの情熱を伝えました。

そして、あらんかぎりの声を出してナレーションをしていた、ある日の収録…
一回かぎりだったはずの現場で「別件で仕事があるんですけど、ガンバルジャンさんにお願いしていいですか?」

それは一本の仕事が『つながった』瞬間でした!

そのときは誇らしさと同時に、またダメになってしまうのではないかという不安も同時にありました。でもこの時の自分には前を見ることでしか、生き残れないという思いの方が強かったのです。

その思いと行動はまわりを巻き込む「勢い」を生み始めたのでした。
さらにある日「知り合いのスタッフにボイスサンプル渡しておいたから」とスタッフさんからスタッフさんへつながり始めたのです。
そのつながりはついに…地上波のテレビナレーションレギュラーへとたどり着いたのでした!!

苦節9年、ようやく「コーラスライン」の向こう側に来れた。
「テレビの中」という名の、あこがれの、夢の、聖地っ!
ブースで喋ったプレイが、実際にテレビから流れる瞬間。
それは何にもかえがたい充実感でした。

必死にナレーションに食らいつく日々をすごすうち、気がつけば、なんとかナレーションだけで生活が出来るようになっていました。声優を目指すようになってから、ずっと続いていた「バイト先」をその日、辞めた。

帰り道。夜空を見上げると、ひときわ輝く星がひとつ。
「小豆地さん…俺…ナレーターをもっと頑張るジャンしますっ!」

嗚呼、無情。

思えば「声優ジュニア」という、光のあたらぬ船底労働者から、ナレーター転身を果たしたことで、奇跡的にTVレギュラーをゲットした私…しかし一つの階段をあがれば、また次の階段もはっきりと見えてきた。

TVナレーションの「表現力」や「説得力」それを生み出せる「強い声」を手に入れること。先輩や同僚には「プロなのになんで今さら勉強すんの?」と首をかしげられました。

でも僕は知っているのです。そういう先輩たちこそ、実は少しづつ仕事が先細りしていることを。見えない不安に毎晩襲われながら、幻の現状維持を祈っているにすぎないことを。

『ただ待つだけじゃない。攻めて行くんだ』その言葉がこだまする。
そして私は次の階段を昇るため「ナレータースクール」の門を叩いたのでした。

そのスクールの初日。
『それでは講師をご紹介します~「理論派ナレーションを展開する若手ナレーターで声優でもある『ヒッキー先生』で~っす!』

Σ( ̄□ ̄)あがっ?!!!

『どうもー!ヒッキーで~っす!みんなよろしくね~っ!』
やってきた男はまさかまさかの「太陽を盗んだ男」ヒッキー!

「きゃ~ん、ヒッキーせんせぇ~い!」となぜか歓声をあげる生徒たちの声。椅子からずり落ちた私のことなど誰も知らなかった。

嗚呼、無情。
コーラスラインを飛び越えろ~飛び越えろ~、あ~あ~みんなのガンバルジャン!(完)

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ヒッキー

声優とナレーターを両立・ヒッキー引きこもりから抜け出し、声優からナレーターになった男。
現在ではドキュメンタリーや番組のレギュラーナレーション、声優としては大ヒット作に出演するなどみごと社会復帰を果たした。

ガンバルジャン

声優ジュニアからナレーターに・ガンバルジャン夢にまで見た声優ジュニアは、まるで「レ・ミゼラブル(ああ無情)」な世界だった…。ナレーションを学ぶことで番組レギュラーをもち、社会復帰に至った、男泣きナレーター。