HOME > ナレーターたちの物語 > 声優ミゼラブル > 第12幕・ガンバルジャン「氷の無表情」

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声優ミゼラブル12話・ナレーターメルマガ

2009年3月19日 ナレーターメルマガ108号より転載

声優ジュニアとして生きたガンバルジャン
前号では、ウルトラ敗者復活戦「所属事務所社長の誕生パーティ」でミュージカルどセンターを任されたあと、突如主役を同世代でスター声優の「ヒッキー」にかっさらわれたところまで書きました。

そんな絶望の私を『今日の出来はよかった。来週ナレーションの仕事一本振るね。ベテランの方の代打なんだけど頼むな』のたった一言で救いあげてくれたマネージャーの小豆地(こまめち)さん。

「仕事!」嗚呼こんなに素晴らしい響きの言葉がまたとあろうか!!
ついに私も牢獄のようなジュニア生活から脱出する日がきたのだ!

ナレーションって、どういう仕事だ?

ナレーションをはじめた声優ガンバルジャンだが待てよ?
ナレーションって、どういう仕事だ?

声優に憧れ、気がつけば9年もジュニアをガンバルジャンしてしまった私は、この時まで「ナレーション」を具体的によく知らなかった。

要は”語り”というか”朗読”というか、とにかく台詞じゃなくて、文章を読むアレか…?う~んでもまあなんとかなるか。

この時はまだ「台詞と違ってかけあいじゃないから”ラクでいいな”」などと思っていたガンバルジャン。結局、毎日インコの餌やりなどしながら、のほほんと仕事の日を待っていたのだった…

「ナレーション」には独自の方法論があった

さて、仕事当日。
呼び出された現場のソファに、カッチカチになって座る私が、いた。

そもそもマネージャー小豆地さんの電話のあと、私はずっと『原稿が来るのを待っていた』。声優は少なくとも前日までに原稿をもらえる。だが、原稿はやってこなかった。
まさか初見…?
後日知ったがナレーション界では原稿は現場渡しが常。だから反射力が必要だし、なにより日頃「どういう訓練をしておくか」がとても重要となるのだ。

そればかりではない。スタジオの入り口に「ガンバルジャン様4MAにお入りください」の張り紙がーっ?!
MAに入ると「今日はどうぞよろしくお願いします」みんな笑顔で挨拶してくれるーっ?!
声優ジュニアの場合なら、早くきたら来たで「みなさんに気使わせんな!」ぴったりに来りゃ「重役出勤してんじゃねー!」

そして極めつけは…
『あ、ガンバルジャンさん、お水とお茶は用意してあります。それともコーヒー入れます?あっと、お菓子はこっちです~』

えええええええーーーーっ??????!
あまりの対応に本当にびっくりして、普段からコワ面の顔をさらに険しくしてしまった私。

D「今日はよろしくお願いしまーす。さっきのAD、入ったばっかなんで勘弁してやってくださいね」雑談と冗談でPやDは笑っていた。それは「私の緊張をほぐしてくれているんだな」とわかった。

空気も和んだところで、原稿があがり「じゃ、ブースいきますか?」
え?え?え?
ちょ、目も通してない!
…すでにだらだらに汗をかいていたが、バレないようにした。

「じゃ、テス本(テスト本番。良かったらそのまま録っちゃうね~の意)でいかせてくださ~い」
ビビっと、目の前のモニターに映像が映し出される。原稿をとにかく読みあげていく私。
そこからは…ダメダメだった。

自分では丁寧に読んでいるつもりが「ここは抑揚つけないで読めますか」「台詞じゃないですから、感情じゃなくて”事実”を伝えられますか?」「CMへのフリなんで、もっと煽ってもらえますか?」

…甘かった。
「ナレーション」には独自の方法論があったのに、私は何も知りもせず、自分が”やれる”と勘違いしたことだけを一生懸命やってしまっていた…逃げ出したい気持ちだけがそこにあった。あとにできることは「とにかく声を出す」くらいのもの。

そんな私と収録をしながら、1行喋っては止め、ダメ出しをして、録っていくするスタッフさん達が、ブースの窓からにじんで見えた。
うまく”伝えられない”私のために、台本を書き直して頭を悩してくれているD。
私の”あおり”が足りないから、派手な効果音をつけ直してくれている音効さん。
”尺”に収まらないから、むりやり調整して尺にいれてくれているミキサーさん…

みんな、何かを”作って”いた。力をあわせて目の前の困難を必死に乗り越えようとしていた。
そんな中、自分だけが何もできずに、ただ小さくなっている状況。

「すみません」予定の倍近くかかった収録を終え、そう言うしかなかった。

上手くなりたい!

「緊張しました^^?でも初めてのナレーションにしては良いと思いましたよ。僕たちは映像をとるプロです。だから音声のことは、ナレーターさんにお任せするしかないんで、つい難しい注文をしてしまいましたが、一発オッケーだった部分は”映像に息を吹き込んでくれた!”ってところなんですよ。おかげで視聴者にもっと楽しんでもらえる作品になったと思います。今日はありがとうございました」

そこには、それぞれの仕事をする者への”リスペクト”があった。
”良い作品をつくりたい”という彼らの情熱に触れたとき、その暖かさに、ジュニアの世界でずっと私が感じていた”なにかの違和感”を覆い隠していた「氷の無表情」が、しずくとなって溶け出していった。
これまでとは違う。お金の為だけでもない、プライドの為だけでもない。
『上手くなりたい!』
純粋に、ただそう願うのは、何年ぶりだったろう。

声優とのアプローチの違いもあるしね

何度もお礼を行ってスタジオを出ると、マネージャー小豆地さんがきてくれていた。

「ナレーションは一人ですべての責任を追うから、今日はいろいろダメ出しされてびっくりしたでしょ?でもスタッフさんたち、ガンバルジャンの声は好きだって言ってたよ。初めての現場でそこまで言ってもらえば上出来じゃん。でもね、今回はもういいけど、現場でいつまでもダメ出ししてもらって、教えて”もらう”側でいちゃダメ。代役だってお金を”もらう”んだから、まずガンバルジャンが何かを”あげて”はじめて成立する世界なんだからね」
「俺、”プロ”をなめてました…。でも…俺にできることなんて、あるんでしょうか」
「そうだなー。勉強してあがいてみるのもいいんじゃない?ナレーションを。声優とのアプローチの違いもあるしね」
「ま、また勉強ですか…」
「はは、でも”想い”をそれぞれに表現していく演劇や歌と一緒で、ナレーションにも『最低限やらなきゃいけない』ことがあるんだよ。そんな基礎は知っておいた方が、断然有利だと思うよ」
「は、はい!!俺、ナレーションの基礎から勉強してみたいですっ!」

そして後日。
私の口座にナレーションのギャラが振り込まれていた。もちろん、小さな小さな仕事だったけれど、それでも貧しかったジュニアランクの若手声優時代に初めて、家族にプレゼントを買ったのだった・・・。

次回は、敵か味方か”おみやげ坂クンタキンテ”が登場します。

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ヒッキー

声優とナレーターを両立・ヒッキー引きこもりから抜け出し、声優からナレーターになった男。
現在ではドキュメンタリーや番組のレギュラーナレーション、声優としては大ヒット作に出演するなどみごと社会復帰を果たした。

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声優ジュニアからナレーターに・ガンバルジャン夢にまで見た声優ジュニアは、まるで「レ・ミゼラブル(ああ無情)」な世界だった…。ナレーションを学ぶことで番組レギュラーをもち、社会復帰に至った、男泣きナレーター。