HOME > ナレーターたちの物語 > 声優ミゼラブル > 第11幕・ガンバルジャン「蜘蛛の糸」

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声優ミゼラブル11話・ナレーターメルマガ

2009年1月22日 ナレーターメルマガ103号より転載


晴れてジュニアとなり、初回の仕事で考えられない失態を演じ半年ホサれた後、ガンバルジャンに超ウルトラ敗者復活戦が巡ってきたところまで書きました。

所属する大手事務所社長の「北三局(ぺい・さんきょく)誕生パーティ」が開催。社長へのアピールのため、それぞれの野心を胸に秘めミュージカル公演どセンターを任された私。

意気揚々と稽古に励む日々の中、突如明らかになった「主役・ヒッキー」の衝撃・・・

そう、本番前日「事務所首脳陣にアピールする日の当たる場所=主役」を私からあっさり奪い取っていったのは、このメルマガで同時に連載をもつ、「太陽を盗んだ男」ヒッキーその人だったのでした。

この程度、耐えられなくて、声優にはなれんですから

声優ジュニアの戦い・ガンバルジャンそしてやってきた、大本番当日。

早朝からスタンバイ後は超駆け足でリハーサル。後は出番までひたすら待ち。
同期のジュニアたちが舞台の高揚感でガヤガヤと騒ぐ「相部屋」の控え室で、ひとりポッツーンと佇んでいました。悔しいのか悲しいのか、それらがないまぜとなって気持ちがこみあげてきます。ううう…胸がいたい。誰にも気付かれないように声を殺して泣いていました。

「だ、大丈…夫…?」
振り返るとヒッキーさんでした。涙をみられるワケにはいかない。

ヒッキー「(足の)痛みは大丈夫?もしかしてお腹が痛いとか?」
ガンバル「この程度の痛み、耐えられなくて、声優にはなれんですから」

思いっきり強がりを吐くしかなかった。
同情するなら替わって欲しい。

ついていってみようぜ!俺たちも参加してたんだし!

そしてステージが始まり。ほどなくして幕は閉じられた。
私たちの出演する舞台『ヒッキー・サンバ』はそれはそれは大成功でした。
あふれる歓声に鳴り止まない拍手。お互いに耳打ちしあうマネージャー陣。
(「あの新人いいね」「ヒッキーでしょ、若いし、キレがあるよね」)

舞台がはねた後の楽屋入り口。
大番頭・小堀田(こほった)さんがヒッキーを呼ぶ。

小堀田「なかなかいい出来だったよ。さあみんな待ってるから、こっちへいらっしゃい」
にこやかな笑顔でヒッキーさんは背中を押されながら、盛大なパーティが開かれる会場へ。

それをだまってジーとガンを飛ばしていた、ガンバルジャンと”情報通Cくん”こと、友人の伴サンカン君。
伴サン「付いていってみようぜ!俺たちも参加してたんだし覗くくらいいいだろう」
ガンバル「でも呼ばれたのはヒッキーさんだけだし」

会場入り口から垣間見える賑やかなパーティ。プロデューサーや監督達とにこやかに談笑する、「太陽を盗んだ男」ヒッキーは輝いて見えた。ホントは俺がいるはずの場所だったのに…

小堀田「ちょっと、君たちなにやってんだ!汗臭いジャージ姿で、来賓の目障りだろ!」
伴サン「いや、あのガンバルジャンが中に入ろうって云うもんで、えへへ」
小堀田「ここは君たちジュニアの来る場所じゃないから。呼ばれるまで楽屋で待機してるように!」
小堀田さんがキッとした顔で一べつをくれて、勢いよく扉は閉じられた。

ガンバル「お前が行こうっていったのに…なんで俺が…」
伴サン「あ~腹減った。飯残ってるかな~」

それはジュニアからはい上がるビックチャンスの「蜘蛛の糸」が切れた瞬間だった。細い糸が切れて、真っ暗闇の奈落に落ちていくかのような、ぞっとした感覚。時折会場からドッと笑い声が響く。賑々しい宴会場の隣で、2時間あまりまんじりともせず、一点を見つめ放心するしかなかった。

そしてパーティが終わり会場の片付けが始まった。
若手マネージャー小豆地(こまめち)が大番頭・小堀田さんに駆け寄ってきた。

小豆地「ジュニアの連中はどうしましょう?楽屋で待機してますが…」
小堀田「あ、忘れてた。まだいたんだ。連中はさっさと帰しとかなきゃだめだろ!」
小豆地「そ、そりゃそうですよね~あはは」

美しくも悲しい

そして、バックダンサーであるジュニアの一団は、真っ暗な空の下とぼとぼと駅に向かって歩き出すしかなかった。さすがの情報通、伴サンカンもこたえたように見えた。でも彼の唇には歌があった。

ジュニアはみんな 生きている
生きているから 歌うんだ
ジュニアはみんな 生きている
生きているから かなしいんだ

手のひらをヒッキーに すかしてみれば
まっかに流れるぼくの血潮(ちしお)~

しだいに歌声は重なっていき、皆の気持ちを一つにまとめはじめた。美しくも悲しい最後の団結だった。

…踊り、良かったよ

そこへ、一台の車が急停車する。ウインドゥがあがるとそこにはヒッキーさん。そして助手席には大手事務所『熱海見本』の新人女性声優「下田くぬぎ」がいた!

ヒッキーさんが、長い沈黙の後、一言。
『…踊り、良かったよ』

それだけ。
他に、なにもなし。

遠ざかる車がふぁんっと、クラクションを鳴らした。

かっちーん!
夜空を見上げてもガンバルジャンが探し求めていた太陽はもう見つからなかった。神よ!どこまで私を試せば気が済むんですか!
『ぅおおお===!!!』

みんなの前であろうとなりふりかまわず、号泣しようと思ったその瞬間。若手マネージャー小豆地(こまめち)さんから携帯のメールが!

『今日の出来はよかったよ^^ガンバルジャンの頑張りのお陰かなwだからというわけではないけれど、来週の仕事一本振るね。ナレーションなんだけど。詳しくはまた連絡します。小豆地』
『ぅおおお===!!!』

一人でもこんな俺を気にかけてくれた人がいたんだ。しかも仕事まで振ってくれるなんて。頑張ります小豆地さんのために。そして自分のために。
うれしくても涙が出ることをガンバルジャンは初めて知った。

でもナレーションなんて初めて。
俺で大丈夫かな?

次回ついにガンバルジャン快進撃の始まりなのか!?
待て、しかして希望せよ!!

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ヒッキー

声優とナレーターを両立・ヒッキー引きこもりから抜け出し、声優からナレーターになった男。
現在ではドキュメンタリーや番組のレギュラーナレーション、声優としては大ヒット作に出演するなどみごと社会復帰を果たした。

ガンバルジャン

声優ジュニアからナレーターに・ガンバルジャン夢にまで見た声優ジュニアは、まるで「レ・ミゼラブル(ああ無情)」な世界だった…。ナレーションを学ぶことで番組レギュラーをもち、社会復帰に至った、男泣きナレーター。