HOME > ナレーターたちの物語 > 声優ミゼラブル > 第9幕・ヒッキーの「ヒッキーサンバでポン・前編」

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声優ミゼラブル9話・ナレーターメルマガ

2009年1月15日 ナレーターメルマガ102号より転載

声優の仕事がきたヒッキー
この物語は、今ではドキュメンタリーなどナレーションのレギュラーをもち、また声優としても活躍することでひきこもりから社会復帰を果たした男、そんなヒッキーの人生を追った物語である。

「しゃべるだけで稼げるなんて声優ってラクショー」と不逞なヒッキーの前に現れた、有名声優「飛葉ミゲ~ル」氏との出会いは、なんと師の紹介でジュニアをすっ飛ばして超大手事務所「パッポン・プロ」の「正所属」をもたらしたのであった!
ところが!
そのことが災いとなってしまう。それは新人にして、いきなりランク持ちになってしまうということ。ヒッキーは入ったと同時に「新人としては高くて使いにくい存在」になっていた、ということなのであった!

プータローにリーチッ!

はじめての声優の仕事・ヒッキー事務所に正所属したはいいが、プータローになったんだと気付いたのはそれから3ヶ月後だった・・・
引きこもりから頂点へそしてプータローへと、ジェットコースターの如く上下する人生に眩暈を覚える。


『いったい何をすればいいんだ?だまって何かを待てってことなのか…』

そんなこともわからない、宇宙人ヒッキー。もちろんわからないからといって、話す同級生もいない。

「孤独なんてなれっこさ」いつもの口癖なのだがなんだか寂しい(涙)数ヶ月に一度、ガヤかボイスオーバーの仕事が入るだけの「ほぼプーターロー生活」

だがその頃のヒッキーには「一人の時間」だけはあった。毎日、新聞を声を出して読み、発声練習も欠かさなかった。もらった台本を穴があくまで読み込み、自分の演技だけではなく作品全体を見通す目を養っていた。一つの作品を共に作りあげていくこと。それは飛葉師匠の舞台に参加するうちに学んだ大切なこと。忘れた頃にやってくる程度の、小さな役が来るたびに、作品についての提案をディレクターにぶつけてみたりしていた。

仕事がポンッ!

そんな生活で1年がすぎた、ある日。一人のディレクターからの『指名』が入ってきたのだ!

現場ではヒッキーの提案をまったく相手にしてくれなかったちょっぴり怖い、ベテランディレクターからのものだった。それは天からの恵みと思えた。

その一本の『指名』でデスクやマネージャーの態度がすこしずつ変化してきたのです。

お呼出しでポンッ!

少しずつではあるけれど、小さい仕事が来るようになったある日。
泣く子も黙るマネージャーの大番頭・小堀田(こほった)さんから事務所へのお呼出しが!

「ヒッキーさ、入所1年で頑張ってるよね。噂はいろいろきいてるよ」
「そそそうですか~?!ありがとうございます」
「次は、舞台に出てみない?」
「し、仕事ならなんでもやらせていただきますっ!」
「ほんと?オッケー。あ~稽古日が現場とかぶってるなぁ。(といきなり若手マネージャー小豆地(こまめち)さんに電話をかける)おい、なんだよこのヒッキーの日程?なんとかなんないの?スケジュール抜いといて!例のアレ、ヒッキーに任せるからさ。なに?出来がいまいち?う~んキャスティングミスだったんじゃないの~?”出来ない”の使ってどうすんだ!ったく~」

こ、こわい…
なく子も黙る大番頭のもう一つの顔をみたような気がしました。怖い大人は怒らせちゃダメだ~っ。

「(電話おいて)うーん、他の出演者の出来がいまいちらしくってね、ヒッキーは歌と踊りはできるんでしょ。ま、ヒバちゃんの弟子なら楽勝っしょ?」
「ウグウグ、モゴモゴ、ガガんば・・・」
「そっか。じゃ、主役だから。よろしくね。君が舞台を引っぱっていって」

えーーっ?!!
い、いきなり舞台の主役?!

「あ、といっても、いわゆる舞台じゃなくて、社長の誕生イベントなんだけどね。でも対外的なアピールの意味が大きいから、もちろん主役は責任重大だよ(笑)」

さっきまでの強面から一転して、優しい笑顔になる大番頭・小堀田(こほった)さんの期待が逆に恐ろしくなり、みるみる青ざめるヒッキー。
実はヒッキー、弟子だの舞台経験だのといっても歌や踊りを本格的にやったわけではないし、主役なんて演じたことはない。それがなに?!ううう…いつのまにか舞台からやってきた新人としての「噂」が一人歩きして、歌や踊りまでできるということになっていたのだ。

ピーンチピーンチピーンチ
だが。飛場さんの顔に泥を塗るわけにはいかない!
と、とにかく、やれるだけやろう!

その夜からヒッキーは、誰もいなくなった児童公演で、(いつものことだけどやはり一人だけの)孤独なレッスンを始めたのである。

舞台でポンッ!

そしてついに、初めて皆と顔を会わせる稽古の日。
台詞は毎日毎日一人で練習してなんとか覚えた。歌も振り付けも、仕事の合間をぬって、一人でできるところまではぎりぎりなんとかした。

だって、途中参加のヒッキーがもたもたして足を引っ張っることなんて出来ない。連日の稽古をこなしている同じ若手の皆に迷惑をかけられない。けれど…さっきからマネージャー氏の「主役は責任重大だよ」「キャスティングミスだったんじゃないの~?」の台詞が頭をぐるぐるまわる。

がくがく。足も震えだした。喉もからから。
逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。妄想をふりきるように、袖からステージにむかうと、すでにバックダンサーの若手たちがそろって、練習にはげんでいた。

みんな表情がキラキラしてた。全員目が真剣で、なんだかわからないけど、すごく心に伝わるものがあった。
「出来がいまいち」「キャスティングミス」…そうじゃないだろう。
つたなくても、こうして皆で協力しながら大切に一つの作品を作り上げていく。この積み重ねこそが舞台の世界なんだ!それこそがプレイヤーとしての大事な部分なんだ!今さらながらの事かもしれない。でもあらためて同世代の若手から教えてもらった気がした。
いろんな気持ちがないまぜになって涙が浮かんでくる。
本当は皆にこの感動を伝えたかったけれど、涙をばれないように、振り向くことさえできなかった。

先日電話で怒鳴られていた方のマネージャー小豆地さんが走りよってきた。
「ヒッキーさん、お待ちしてました!じゃ、振り付け確認させてください」
「はい。お願いします!」キラ~ン
ヒッキーの返事に小豆地さんもほっとしたのか、力強くQ出し。
「じゃ、音楽っ、スタートぉう『ヒッキー・サンバ』!!」

いくぜパッポン 響けチェンマイ 踊れ東南アジアのカルナバル
誰も彼も浮かれ騒ぎ 飛ばすリップがノイズになる
俺、俺がヒッキーサンバ 俺、俺のヒッキーサンバ
ああゲットだぜ えびでタイを釣る
奢ろうアニータ ブレスさえ忘れて 喋りまくろう
サンバ ビバ サンバ ヒ・ッ・キー・サ・ン・バ~ 俺っ!

出演者一丸となって、稽古はばっちり大成功!
曲が終わるまでポツーンと立ち尽くしているバックダンサーが一人。
踊ってる時は真後ろにいるので気づかなかったが、目を細めて、ヒッキーをめっちゃ見てる~っ!怒ってる、この人ぜったい怒ってるよ~っ!

その人の名は「ガンバルジャン」。
もう長くジュニアをやってる人だ。

踊りがダメだったのか?!
足踏んづけちゃったとかっ?!
い、いったい何を話せばいいんだーっ!?

でもヒッキー、初対面はとにかく苦手!!
そしていよいよ怒濤の本番へ!!

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ヒッキー

声優とナレーターを両立・ヒッキー引きこもりから抜け出し、声優からナレーターになった男。
現在ではドキュメンタリーや番組のレギュラーナレーション、声優としては大ヒット作に出演するなどみごと社会復帰を果たした。

ガンバルジャン

声優ジュニアからナレーターに・ガンバルジャン夢にまで見た声優ジュニアは、まるで「レ・ミゼラブル(ああ無情)」な世界だった…。ナレーションを学ぶことで番組レギュラーをもち、社会復帰に至った、男泣きナレーター。