HOME > ナレーターたちの物語 > 声優ミゼラブル > 第8幕・ガンバルジャン「太陽を盗んだ男」

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声優ミゼラブル8話・ナレーターメルマガ

2009年1月15日 ナレーターメルマガ102号より転載

声優ジュニアの世界・ガンバルジャン
前号では、必死でつかんだ初現場で主役席に座ってしまった痛恨のミス。
そして意中の女性、かつての同期でアイドル声優になっていた「グワシヶ原のりピー子」に袖にされる苦い体験…
ガンバルジャンにはそれから半年仕事がきませんでした。

存在を直接アピールできるかもしれない

声優事務所でのチャンス・ガンバルジャンチャンスをみすみす逃したという想いから、テンションはすっかり下がりきってしまいました。練習もしなくなり、やましい気持からか、事務所にも行かなくなり、同期の活躍を見たくないあまり、テレビもすっかり見なくなり…。嗚呼いつの間にか「このままでもいい理由ばかり探しだした」。

もはや声優ニートの道に一直線。

そんな日々を送る私の電話に、いつもの番号が。この連載の第6幕『ジュニアの夜と霧の章』に登場した、情報通Cくんこと、友人の伴サンカン君です。

伴サン「今月、事務所内で、でけえチャンスがあるらしいぜ。実はな、俺たちの事務所パッポン・プラの「北三局(ぺい・さんきょく)社長」の誕生パーティが催されるって話なんだ」
ガンバル「そ、それが一体何のチャンスだというんだね。私は初仕事で大コケした日陰の身。そんな日の当たるパーティなんか…」
伴サン「そうじゃねえ。まだ大きな声じゃ言えねえが、実はマネージャーの大番頭・小堀田(こほった)さんが大規模なパーティイベントを企画してんだ!業界人もたくさん呼んでの、大々的なもんになるぜ!…っと、ここでだ。北三局社長や裏でキャスティングを握っている大番頭・小堀田さんの前で、いいプレイでもすりゃあ存在を直接アピールできるかもしれないってのよ!」
たった一本の電話で、へこんだピンポン球を熱湯にいれたごとく大復活!

そんな私に、ふたたび嬉しい電話が鳴りました。
それは初仕事をふってくれた、働き盛りの若手マネージャー小豆地(こまめち)さんです。

「今度、舞台的なものがあるんだけど。ガンバルジャンは、歌える?踊れる~?」
「両方っ!両方できますっ!養成所の卒業公演ではミュージカルで主役でしたっ!」
「え、そうだったの!いや~ウチの事務所のプレイヤーって歌えない踊れない人がおおくて。それに今回のイベントは会社としても、俺としても賭けてるところがある大勝負なんだよね。じゃあちょっくら助けてくれるかな」

マネージャー小豆地さん、まだ電話くれるってことは、それほど怒ってなかったんだ! ほっとすると同時に、ついに私にもチャンスが巡ってきた。でも頭の片隅では「どうせ端っこで、またレミゼラブル(ああ無情)だろとも思っていました。

どセンターガンバルジャン

後日。マネージャー小豆地氏に呼び出されて、稽古場にいってみると、私達の世代で”動けるメンバー”が集められていました。血気盛んな若手マネージャー小豆地さんが企画したのは衣装もゴージャスな「サンバミュージカル」。

ひとりずつ簡単な振り付けを踊らせたり、歌わせたりしながら、ついに場当たりをしながらのキャスティングです。まるで映画「コーラスライン」の世界のように、横一列に並んだ出演者の中で左から順番にキャスティングをしていきます。

この時、みんながどきどきして待つのは「センター(中央で1番目立つ場所)は誰なのか?!
Bくん、Cさん、Dさんと呼ばれていき…

「どセンター。ガンバルジャン!」

やっっったーーーっ!!!
ついにつかんだ「でけえチャンス」!
ジュニアにもやはり素晴らしい世界はあったのです。
私が恋いこがれていたジュニアの幸福な世界は、紙一重の向こう側にさえいけば、本当にあったのです!

涙と鼻水が止めどなくあふれだしました。わたしはただただそれを流れるままにしておきました。乾くことすらおしいくらいの気持ちだったからです。なぜならそれはただの水分ではない。いままでの苦労と屈辱が結晶体となり昇華していく、私にとってのダイアモンドだからなのです。

見ていて下さい北三局社長そして大番頭・小堀田さん。いまはくすんで見えないかもしれないけれど、きっとこの舞台で輝いてみせる!

ガンバルジャン一世一代の晴れの舞台を!

それが主役の勤めなのだから。

その日から、意気盛んな若手マネージャー小豆地さんと、私たちジュニアの一心同体の、厳しい中にもキラキラとした夢に溢れた訓練が連日続きました。

血のにじむ稽古で、舞台がようやく形になってきたある日。連日の稽古を厳しい目で見続けたマネージャー小豆地さんが、ぱんぱんと手をたたいて汗だくで踊る私たちを集めました。

「みんな、なんとか形になりだしたな!ガンバルジャン、みんなをまとめるのにがんばっただろ。かなり良かったぞ!」
マネージャー小豆地さんは、全部わかってくれてるんだ…。そのひと言で大きな満足感を感じました。

やはり、というか、最初からセンターの私にアンサンブルのみんなは嫉妬していました。どうしてなんだ。なぜ仲間のチャンスを喜べないんだ。足を引っ張ることしか考えられないのか…。
思い悩む日々を送りつつ、ついにつかんだ主役をモノにしたい。そんな一心で皆をなだめすかし褒めちぎっては、やる気を引き出していました。気遣いで神経はすり減らしながらも、すべては良い舞台を作り上げることに集中していました。だってそれがセンターポジション、すなわち『主役』のつとめなのだから。

でも、ここまで、きた。
すべての苦労が報われる時はもうすぐ。

「みんな、これが衣装だぞ?」
それは、和風の羽織袴をモチーフにした素敵な衣装でした。私達男性陣は、ぐっとひき締まるような、忠臣蔵を思わすような重厚の黒です。桃色の女性陣とのメリハリがかっこいい。みんながわいわいとはしゃぎながら衣装を着るのを横目に小豆地さんは続けます。

「良い報告はまだあるぞ!今日はそんなキミたちに、ようやく主役の方がきてくれた!全員で形にするのに、ぎりぎり間に合ったなー!」

…え?
いまなんて云いました?
…主役の方?!

それが主役の勤めなのだから。

そして舞台袖から、同い年くらいの、一人の男性が現れました。
色白の一見してヤサ男で、どう見ても文科系です。
私たちに一べつもくれず、黙ってどんどん立ち位置を確認していくその男に、小豆地さんは敬語で、段取りを説明していくのです。呆然とする私たちを振り返りもせず、クールに淡々と、すぐにその場で振りを確認するその男。

「じゃ、一回全員であわせま~す」

私はこの直後、これまで明かされなかったこの舞台の正式タイトルと、その男の名を初めて知ることになりました。

「じゃ、音楽っ、スタートぉ!『ヒッキー・サンバ』!!

目の前で、ちょんまげのかつらをかぶり、金銀のスパンコールと紫のラメでできた羽織で、ヒッキーさんがサンバのリズムで軽快に踊り始めた。
スポットライトの光が羽織に乱反射してまぶしい。
未知との遭遇のワンシーンのように、私は立ち尽くしていました。

そう、私の立ち位置の「どセンター」はアンサンブル(演劇用語でその他大勢)のセンターだったのです。それは主役ヒッキーの真後ろで、客席正面中央の「首脳陣の誰からも」見えない位置だったのでした。

前がまったく見えないのは、ヒッキーの存在がまぶしすぎるからか。それとも…。

次回、暗闇のガンバルジャンに一筋のピンスポットが!
待て、しかして希望せよ!!

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ヒッキー

声優とナレーターを両立・ヒッキー引きこもりから抜け出し、声優からナレーターになった男。
現在ではドキュメンタリーや番組のレギュラーナレーション、声優としては大ヒット作に出演するなどみごと社会復帰を果たした。

ガンバルジャン

声優ジュニアからナレーターに・ガンバルジャン夢にまで見た声優ジュニアは、まるで「レ・ミゼラブル(ああ無情)」な世界だった…。ナレーションを学ぶことで番組レギュラーをもち、社会復帰に至った、男泣きナレーター。