HOME > ナレーターたちの物語 > 声優ミゼラブル > 第7幕・ガンバルジャン「天は人の上に人を作らず」

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声優ミゼラブル7話・ナレーターメルマガ

2008年12月18日 ナレーターメルマガ100号より転載

アニメスタジオ収録事件・ガンバルジャン
涙の養成所生活から、なんとかジュニアになったガンバルジャン。
勇気を振り絞って事務所にいけばマネージャーに迷惑がられ、その横柄な態度に怒っては「原因は私達ジュニアが事務所にぶらさがりたい気持ちにあったのか」と気づく日々。

ついにマネージャーからの電話が!

ついにアニメのアフレコへ!ガンバルジャンジュニアにはなったものの何故かバイトまみれの惨めな日々。真夜中一人のコンビニバイトでもやることなくぼーっとしては、余計なことばかり考えて過ごしていました。

あれ~『船底』からまったく抜け出ていない…ば、バラ色の生活はどこ?

しかし天は頑張るジャンするものを見捨てはしないジャンでした!!事務所からの電話を待ち続けること約半年・・・。ついにマネージャーからの電話が鳴ったのでした!

ガヤはな、誰もが通った道なんだぞ

「俺が仕事、決めといたから。OVAだ(オリジナルビデオアニメ=TVで流れないアニメ)。キミには『ガヤ』を任せようと思う。ガヤはな、ベテランから売れっ子まで誰もが必ず通ってきたんだぞ」
「ありがとうございます!頑張るジャンします!」
「うむ。だがそんなことより、だ。やるべきことは、わかっているだろうな」
「は、はい?」

ぴきーんっ!
待ちに待った仕事の電話が来て天にも昇る気持ちになるかと思いきや、台本すら受け取っていないのにもかかわらず、凄まじくも無意味な緊張が走りました。
ついに、来ました。声の芸能の中でもいっとうガラパゴス的な文化形成を歩む「声優界」の通過儀礼。理屈も常識もこえた信仰告白その名も「スタジオでのふるまい」です。

これまで、話だけは先輩から、なんとなく聞いていました。
『新人は誰よりも早くスタジオ入りし、誰よりも遅くスタジオから出なくてはいけない』
『新人は他の出演者やスタッフにお茶を淹れなくてはならない。もちろんその際の”順番”は最優先事項である』
『だからといってお茶を淹れたら、それはそれで「茶ぁいれてる暇があったら台本チェックしろや!」と先輩から説教2時間』
『売れっ子の○○は飲み会の席で、先輩用の魚の身を、ほぐしてから出すくらいの気遣いしてるぞ!』

時代や現場それぞれで、必ずしも上記のようなことが行われている訳ではありません。ほとんどないと信じています…が、それはまことしやかに語られていた声優界の都市伝説なのです。そして私はその話をきくたび「声優の善し悪しは、プレイだけで決まるもんだ!」と思っていました。そんな私だったのに…。

その日の夕食では、いぶかしがる母を尻目に、出された秋刀魚の身をほぐす練習をしていました。その時はまだ、理不尽な緊張感の向こうにバラ色の生活を想像していたのでした。

お茶の順番で怒られるというのですから

さて、そんなこんなで初仕事当日・・・。
何があってもいいようにと、予定より1時間以上前にアニメスタジオに到着。アフレコブースに入り荷物を置こうとしたその時、とあることに気づきました。

それは、『座る場所』です。

お茶の順番で怒られるというのですから、新人の私がどこに座っているかで、ひと悶着あることは容易に想像できました。どこに座れば怒られないかを高速回転で考えていると「いや待て!そもそも誰も居ないのに新人が勝手にブースに入ってしまっていいものだろうか」などという疑念まで浮かんできます。

悩んだ私が出した答えは、ロビーで他の出演者を迎えることでした。収録開始時間が近づくにつれ、一人、また一人と出演者がきます。そのたびに「パッポンのガンバルジャンです。新人です。えへへ、よろしくお願いします」とにこやかに頭をさげつづけました。
最後の出演者がブース入りしたとき(ふぅこれで事務所の看板に泥を塗らずにすんだ…)と私もブースへ。

そこで愕然としました。

グワシヶ原のりピーコ

なんと、主役が座るはずの「正面ど真ん中の席」しか空いていなかったのです!
顔面蒼白のまま席につき、初仕事というだけでオドオドなのに、主役「席」のプレッシャーで地に足が着いていないと言うか、お尻がイスに着いていない状態でした。

そのうえあろうことか、私はある一人の声優に心乱されていました。
「主役なのにど真ん中に座らず、新人同然と部屋のすみっこに座っている」ある一人の、ざんぎり頭が特徴の女性に向けられていました。その声優「グワシヶ原のりピーコ(ぐわしがはら・のりぴーこ)」ちゃん。パッポンの前に通っていた養成所で同期だった子でした。
彼女はそこからトントン拍子にジュニアを経て、かなり早い段階でヒロイン役を射止めていました。しかもそのアニメが大ヒット!このころは声優雑誌の表紙も飾ってしまうくらいのアイドル声優に大化けしてしまっていたのでした。

養成所では全く目立つ存在では断じてなかった。でもそんな娘のことを、昔から密かに思っていた私がいた。その娘が、今や時代の寵児のようになっている。それに対し、初仕事でオドオドしている自分の姿を見られたくない、それを気付かれたくないという思い。

あれやこれやで、当然せっかくの初仕事も上の空…。

収録終了後。勇気を振り絞って彼女に声をかけました。
「俺のこと覚えてる?」
『気付いてたよ。でも別に仲が良かったわけでもないから、現場で声かけるのもあれかなと思って』
「そっか、そうだよね…」
そうなのです、過剰な自意識に振り回されて、大事な仕事に集中できていないだけだったのです。

この現場にはマネージャーは来ていませんでした。
再び仕事が入るのは、これから半年後でした。
それがこの仕事での私の結果だったのでしょうか。

しかし私は「ジュニア9年ガンバルジャン」!
次回いまだかってない大チャンスが!
待て、しかして希望せよ!

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ヒッキー

声優とナレーターを両立・ヒッキー引きこもりから抜け出し、声優からナレーターになった男。
現在ではドキュメンタリーや番組のレギュラーナレーション、声優としては大ヒット作に出演するなどみごと社会復帰を果たした。

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声優ジュニアからナレーターに・ガンバルジャン夢にまで見た声優ジュニアは、まるで「レ・ミゼラブル(ああ無情)」な世界だった…。ナレーションを学ぶことで番組レギュラーをもち、社会復帰に至った、男泣きナレーター。