HOME > ナレーターたちの物語 > 声優ミゼラブル > 第6幕・ガンバルジャン「ジュニアの夜と霧」

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声優ミゼラブル6話・ナレーターメルマガ

2008年12月03日 ナレーターメルマガ99号より転載

声優ジュニアの世界・ガンバルジャン
声業界に憧れ幾度かの遠回りを経て入った大手事務所「パッポン・プラモデル」付属養成所。「噂が不信を呼ぶ身内同士のつぶしあい」など定番の洗礼をうけた後、なんとガンバルジャンは晴れて『ジュニア』に合格したのであった!!

再び始まる生き残りの戦い

声優ジュニアの世界・ガンバルジャン大手プロ養成所の場合、ジュニアに上がれるのは4~7人前後。そこから本当に1軍にあがれるのが1~2人という感じでした。

プロへあと一歩である夢の「ジュニア」になったはいいが、さすが大手事務所、なんとジュニアに合格した者が数十人もいたのです。

『ようやく養成所生レースから抜け出したのだ』という心の底からの安堵をあざ笑うかのように、再び始まった生き残りの戦い。それを前にして皆一様に立ち尽くしたのでした。

「疑心暗鬼」と「嫉妬」の黒い霧

さて、こうして始まったジュニアという名の「生き残りレース」。
すでに養成所生ではないので課題もありませんから、私はまだかまだかと、仕事の電話を家でひたすら待っている日々の中。

「あせっても仕方がないだろ。できることやろう」
(そういうあいつは本当にのんびりしてるのか?)

「みんなで力をあわせて所属めざそうよ」
(まさか利用されるのでは?)

「たぶん生き残れるのはキミだと想うよ」
(本気でそう思ってるなら、今すぐ辞めて人数を減らしてくれよ!)

言っている人がなにをどう思っていたにしてももう手遅れでした。私たちは再び「疑心暗鬼」と「嫉妬」の黒い霧に包まれはじめていたのです。

『同期のAっているだろ?やつは事務所にいったら、偶然Bマネージャーと話せたらしい。なんでか趣味があうらしくてな、ずいぶん気に入られて、名前を覚えてもらったってよ』
と同期ジュニアの情報通Cくんが電話をくれたのでした。

同期のAくん……まさか自分だけ…

「名前を憶える…って、事務所の人たちは俺達の名前も知らないというのかい?」
『おいおい泣く子も黙る大手事務所のパッポン様だぜ?所属してたって、一部の売れっ子声優以外、覚えられる人数じゃねえんだ』
「ま、待て。名前も知らずにどうやって仕事をくれるつもりなんだ」
『だからくれるくれない以前の問題なんだって!』
「言っている意味が分からないんだが…」
『よーく聞け。まずマネージャーに会うことが出来るのは現場以外にねえ。覚えられてねえから仕事は、ふられねえ。仕事がふられてねえから現場に行けねえ。現場に行けねえからマネージャーに会えねえ。マネージャーに会えねえから覚えてもらえねえ…』
『そんなシステム…!素敵すぎて、わかんねーよっ!』

愕然としました。
知らなかった…。そんなことから始めなきゃいけなかったのか…。 そして、自分の不明を恥じる気持がそうさせるのか、ふたたび心にわき上がる黒い霧。
『同期のAくん…”みんなで力をあわせて”って言ってたのに…まさか自分だけ…』

このままじっとしても仕事の電話なんて鳴る訳がない。そう気付いてさっそく次の日、仕事をもらいたい一心で、用もないのに事務所に向かいました。そういえば事務所事務所とうわごとのように繰り返していた割に、私は事務所がどんな所で何をしてるのかさえ知りませんでした。

夢にみた「薔薇色のジュニア生活」を失いたくなかった

目の前に広がる、たくさんの机。書類が重なって、みな忙しく電話や電卓を操っているようです。忙しげに仕事をしている背広姿のスタッフ達。ずっとフリーターをやっていた私にとっては、思わず尻込みをしてしまう光景でした。

「こ、こんにちわ~…えへへ」
『あのさ。業界の挨拶は『おはようございます』だから。ったく…』
話しかけたデスクは、振り返ってぎらり、と目を光らせたあと、また書類に目を戻しました。手がものすごい早さでパソコンを打っていました。

「すみませんっ!えへへ…ですよね。あ、あ…お、お忙しいのですよね、すみませんっ!じゃ、失礼しまーす。えへえへへ」
自分でも嫌になるくらい惨めで卑屈だった。

オフィス全体からかもし出される「邪魔だから帰れオーラ」を全身に受け、これ以上その場に居続けることは出来ませんでした。その時は誰も私を見ていないことがラッキーでした。涙目になっていることを知られなくて済みましたから。

同時期に入って、わりと丁寧な対応をしてくれた新人スタッフも、やがて態度がどんどん横柄になっていきました。でも今にして思うと「事務所へぶら下がりたい」という卑屈さが、スタッフをそんな態度にさせていたんだと思います。

スタッフ達の横柄な態度に腹がたちました。でもそれ以上に嫌だったのは、媚びとへつらいを身にまとい、下っ端根性で作り笑いする自分でした。

それでも、ずっと夢にみてきた「薔薇色のジュニア生活」を失いたくなかった。
「どんなに安くたって仕事が欲しい。現場に出たい」
その頃は、そんな想いで胸がはち切れそうでした。

次週、失意と怒りのガンバルジャンに初めての仕事が!
待て、しかして希望せよ!

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声優とナレーターを両立・ヒッキー引きこもりから抜け出し、声優からナレーターになった男。
現在ではドキュメンタリーや番組のレギュラーナレーション、声優としては大ヒット作に出演するなどみごと社会復帰を果たした。

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声優ジュニアからナレーターに・ガンバルジャン夢にまで見た声優ジュニアは、まるで「レ・ミゼラブル(ああ無情)」な世界だった…。ナレーションを学ぶことで番組レギュラーをもち、社会復帰に至った、男泣きナレーター。