HOME > ナレーターたちの物語 > 小さな奇跡 > 第15話・新人ナレーターがわちんの「成り上り」

声優からナレーターへ・声優ミゼラブル

ナレーター,ナレーション,

2016年1月14日 ナレーターメルマガ296号より転載

ファンキモンキーミュージシャン

ナレーター”がわちん”の出発点はミュージシャン。関西で活動していたが泣かず飛ばず。”アニソンならあるいは”と声優事務所『ダムダム団』に飛び込んだことがきっかけで、本格的に声優を目指すことになった。

止まらないHa-ha

”がわちん”を出迎えたのは”ダムダム団”の「お家騒動」であった。分裂で、これからを担うであろう中堅プレイヤーがごっそりと去ってしまった。実は”がわちん”も声をかけられていたのだが。
「上が抜ければ次はオレ、シメシメ」と、したたかな計算があった。事実、”ダムダム団”は、新人を現場に出さざるをえない。
そして目論見通り、ファーストウェーブがやってきた!新人だけで声優男性4人組アイドルユニット『足かせ』を結成することになったのであった!

噛ませ犬

CDデビューも決まった。
「こ、これは思ったより早く夢を叶えてしまうのでは!?」
ウハウハの”がわちん”だったが、送られてきた譜面を見て、脳天に稲妻を受けるのであった。

なんとそれは同期の新人『ボリショイ斉木』のパートだらけの恐ろしい構成。劇団は甘いマスクのボリショイに賭けるつもりだったのだ。

「俺たちは‥‥”ボリショイ斉木”の噛ませ犬じゃない!」

怒りの”がわちん”。ユニットのためなんかには、鼻毛一本抜かない「お殿様」然としたボリショイのヘラヘラ顔を睨みつけながら。ユニットに用意されたネットラジオで、ひたすら目立とうとするも虚しさがこみ上げてくるばかり。

紙一重のはず

結局アイドル売りも声優も、泣かず飛ばずであった。わずか2~3通のネットラジオの視聴者ハガキだけが心の支えだった。もちろんネットラジオでは食えるわけもない。とはいえ辞めることも考えられなかった。実はこの頃、”がわちん”は大ヒットアニメ「すじこのマス目」のド主役のオーディションの最終選考3名まで残ったりしていたのである。
「あと一歩。紙一重のはずがなぜ‥‥」
頭の中で焦りがとぐろを巻いていた。

飲み会Somebodys Night

そんなある日。恒例の同期たちとの飲み会が、ある話題で持ちきりになった。これまで何をするにしても、1ミリのやる気も見せなかったチャラチャラ野郎”あの”『ボリショイ斉木』が、最近おかしな動きを始めたというのであった。なんでも、自腹を切って他所でボイスサンプルを収録し、マネージャーへの売り込みをしているというのだ。

事情通の同期が言うには。
「だいぶ前にウチをやめて、ナレーターに転向して、今じゃ売れっ子になった先輩”Oh!イエー”さんっているだろ。その”Oh!イエー”さんから、営業を学んできたらしいんだ。てゆうかさ、ボリショイってさ、ヒック、そういうところがなんか‥‥”こざかしい”よね~‥‥ヒック」

最初は「ふ、ふぅん‥‥」と他人事のようにきいてた。なにやらボリショイはマネージャーへの営業でナレーションの仕事をつかんだようだ。あるごとに開かれる飲み会で、ボリショイの動向を聞くたび、同期たちは憎々しい思いを口にした。

ついに俺が‥‥トップ!

ある夜いつものグダグダ飲み会に、衝撃が走った。
「ダムダム団、近々倒産するらしい!」
中心の売れっ子たちは解散と共に、愛想を尽かしダムダム団を去った。残された社員と声優で声優事務所「ケトル茶碗党」ができた。

「ついに俺が‥‥トップ!ってことは~?ふはははは」
倒産とは言ってもダムダムに残ったルートがあれば仕事はあるはずだ。皮算用する”がわちん”であった。

そんな”がわちん”に吹き替えの仕事が舞い降りた。天の恵み!
中国ドラマだが毎月12本のレギュラーだ。トップにふさわしい仕事。次々と来る台本のチェックと収録に没頭する日々。収録が終われば飲み会も欠かさず参加した。だってそれが声優だと思っていたから。

しかし有頂天からの墜落は早かった。ギャラが振り込まれて愕然とする。1本4000円つまり月4万8千円しか入っていなかったのだ。収録ごとの飲み会費は4000円だったのにである。

それ以外の仕事は来なかった。決壊したダムに水は残ってなかったのだ。

ダムよさらば 敵か味方かOh!イエーさん

「俺がトップだ!」と思ってから、1年が過ぎていた。気づけば”がわちん”も30代。吹き替えの仕事を、やればやるほど家計は苦しくなる一方。来月の自分すらイメージできない暗黒の日々。

そんなせっぱつまった頃、いつもの「ぐだぐだダムダムOB会」に”Oh!イエー”さんが顔を出した。2年前ぶりに会った”Oh!イエー”は、驚くほどシュっとしていた。身なりも高級そうでファッショナブル。なぜか焼肉店なのにウィスキーを傾ける。そして言葉の全てが「プロに成っていた」。響きの良いロートーンで、さらっと『その声なら、ナレーションいいんじゃないかな、オーイエー!』

社交辞令を言ってくれただけかもしれない。けど”Oh!イエー”さんは安易なことは口にしないはず。というか、何よりボリショイの歩いた道に続くのは屈辱的だ‥‥しかも家計は火の車。

「自分と同じくらいと思うなら実際は自分の方が下。ちょっと離れてると思うならだいぶ離されてる。アンダースタン?オーイエー!」その言葉を繰り返し、俯いて考える。

何か、もう少し言葉が欲しい。ようやく顔を上げると、”Oh!イエー”さんは、すでに全員分の焼肉代の支払いを済ませて帰った後であった。

トラベリン・バス

考え続けて、吹き替えの仕事をすべて降りた。最終的に決断した”がわちん”は、本当に最後の賭けで猪鹿蝶に。そのためのボイスサンプルを録ることにした。
気合を入れて書いた自作原稿を一瞥した主任山上の一言は「声優センスで考えたバラエティだね」であった。悔しさが溢れそうになった。
だがそうした収録でのやり取りでようやく「ナレーションのナの字が見えてきた」カウンセリングで、向かうべき方向をスポーツに絞り込むことができた。

サンプル作成から1ヶ月後。猪鹿蝶から電話があった。

スポーツ特番での1パートを任された。さらにボイスオーバー、PRと細かく実績を積み上げている。ギリギリだが生活も見通しが利くようになった。

学ぶにつれボリショイの選択が理解できるようになってきた。レッスン終わり、ボリショイとも楽しく語り合えるようになった。

ナレーター魂に火をつけろ

決して派手なデビューではない。”がわちん”は、どちらかというと地道に、じっくりと仕事をつなげ、広げてきたタイプだ。

「ようやくナレーションで食っていけるのかな、と思え始めたばかりです。もちろん新たな仕事がもらえることは嬉しいんですが、それ以上にいろんな現場のスタッフ陣が、「あの声の人で」といって『リピート』してもらえること。それが本当にありがたく感謝してます」

「それにナレーションで生きようと考えるにつれ”ボリショイ斉木”の選択が理解できるようになってきたんです。ようやく彼とも深く語り合えるようになりました」

そう語る”がわちん”は今日もテレビで声を張り上げている。

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