HOME > ナレーターたちの物語 > 小さな奇跡 > 第2話・普通ちゃん「普通のマジック」

声優からナレーターへ・声優ミゼラブル

2010年2月25日ナレーターメルマガ134号より転載

新人ナレーターの「普通ちゃん」さん。36歳。小劇場の舞台、顔出し、声優と長く業界をさまよった。OLとして働きながら、プロナレーターとしても活動している。
俳優出身ナレーター普通ちゃんの営業秘話ちなみに「普通ちゃん」の由来は、本人の嘆き『わたし読みが”フツウ”で。どうしたら良いんですか~(涙)』からつけられたニックネームだ。

だが確実に声のスケジュールは増えている。一つ一つは小さな仕事。まだ食うところまではいけてない。それでも”仕事がつながりだしている”手応えをはっきり感じだしている。

ジプシー・クィーン

普通ちゃんの始まりは、名もない劇団に入団したことだった。だが多くの舞台俳優がそうであるように「舞台に立つために劇団に入ったのに「明日どう食べていくか」に集中すること」になってしまった。アルバイトよりはと、とあるタレント事務所に所属した。”タレント活動全般”というと聞こえは良いが実際は…

「Vシネなどのエキストラが半年に一度ある程度でした。当時は『事務所って所属している人を食べさせるのが仕事』と思っていたし、他のプレイヤーの状況も似たりよったりで。不安だけはつのるけど、結局、毎日待つだけで過ごしていました」

悩んだ末そこも辞め、養成所と小事務所を渡り歩くジプシーの生活が始まった。

とにかく業界人と知り合いにならなきゃ

普通ちゃんは「ディレクターやプロデューサーがレッスンしてくれる」養成所を目指す。そして実際にディレクターが教えにくる念願の上位クラスへ。だが、そこでも思い描いていたようには仕事がつながらなかった。

「仕事をしていなかった当時は「ディレクター」ときけば、それだけでつい「神さま」のように捉えてしまっていました。きっと誰かが私を見いだしてくれるはずと、思ってましたし(笑)」

同じく仕事をもらえなかった同級生たちと「次はどの学校がいいかなぁ」と話しあった。なにかの救いを求めてきたはずの稽古場の帰り道は、いつも真っ暗だった。

「今にして思えば”知り合えるだけ”ではダメなのは当然ですよね。その時にはぼんやりとしか敗因がわからなかったけど、私たちディレクター目当ての生徒には、”知り合ったことをどう活用できるか”が抜けていたんです」

最前線で戦うマネージャーはこういう考え方をしてたのかと初めて気づいた

やがて普通ちゃんは、スクールバーズにたどり着く。実技のコースと、営業を学ぶアドバンスコースの同時受講。いままでと同じように、最初は軽い気持ちだった。しかし、何かがカチっとはまるような気がした瞬間があった。

「それまで私の読みはディレクターからも「いいんじゃない?」としか言われたことなかったんです。原稿選びから読み方まで、ぜんぶ理由は”なんとなく”です。バーズでは「買う人は何を求めているか?だからこういう読みでいこう」という”仕事をとりにいく読み”だった。最前線で戦うマネージャーはこういう考え方をしてたのか、と知りました」

あっという間に半年がすぎた卒業間際のある日。
「いよいよ自分で動きださなきゃ」と考えたが何のアイディアも出てこなかった。ヒントを求めてアドバンスコースのノートを読み返して愕然とする。

大学ノートにびっしり書かれたメモのほとんどが『初めて読む』ことに気づいたのだ。

「ほんっとに、びっくりしました!わたしは、講義をメモすることだけに必死で、なんにも頭に入ってないじゃんと思って。なにしに毎週頑張ってスクールいったんだーって。半年分のがっかりが、いっぺんに襲ってきた(泣笑)」

そこで普通ちゃんは決意する。
「もう一度、最初からやり直しだ」2期連続でアドバンスを受講することに決めた。

仕事での失敗が待っていた

その頃、それは新しく所属していた事務所からの仕事だった。
「重要クライアントが新人を起用したい」ということで普通ちゃんが選ばれた。だがその日は、ひどく体調を崩していたのだった。新事務所での居場所を失わないためにも、不調をおして現場に向かった。

結果は、さんざん。
体調から声もろくに出なかった。現場のディレクションにも、まったくついていけない。収録後は、青い顔をして座っていることしか出来なかった。あれほど「次につなげたい」と思っていたのに。事務所のチーフマネージャーは露骨にカンカンだった。その日から普通ちゃんには、声もかけてくれなくなってしまった。

「せっかくのチャンスを生かせなかった」悔しくて涙が出た。

”その瞬間”は『ほんとに普通』の手法だった。

傷心の中通う2度目のスクールバーズ「アドバンス」。講義のメモに夢中になっている同級生を横目に、普通ちゃんは講義を聞き流しながら、学びとる何かを探していた。

「2度目のアドバンスコースは、講義の大枠や着地点もわかりながら聞いているので、講師の皆さんがちりばめてくれている膨大なヒントを残さず拾うことができたんです」

そんなある日のレッスン。
「営業について、稲妻に打たれたように、これまで教わっていたことがバーッ!とつながった瞬間があったんです。それは、聞けば当たり前の『ほんとに普通』の手法。「ほんとに普通の私にできることは、これだ!と」

感謝の気持ちを丁寧に文字に込めた。

今すこしある仕事はただのラッキーにすぎない。スクールでの一言が胸にひっかかっていた。自分に何ができるだろう...さんざん泣いた後で心が素直になれたのかも知れない。
「大失敗した仕事」申し訳ないと思う気持ち。いやそれより大きな気持ちは、ダメダメな私のナレーションでも、なんとか作品に仕上げてくれたスタッフへの感謝だった。普通ちゃんは、スタッフへ感謝の手紙を書いた。そして、これまでやってきた仕事のスタッフたちへも、あふれる思いで手紙を書き続けた。

だが、状況は簡単には変わってくれなかった。

夜の静けさの中で、自分の心を素直に見つめ直しながら手紙を書く。しかしそのあいまあいまに、ふと胸騒ぎを覚える。「ほんとに、これでいいんだろうか?」「プレイヤーは表現することに集中してればいいのに」と親身そうにアドバイスをしてくれる友人プレーヤーたちの言葉が、普通ちゃんの心を揺さぶる。

「やれるだけやったんだ。潮時かな」そう思うとまた涙が出た。

「情熱」を選びたくなっちゃったんだよね。

数ヶ月たったある日。「例のクライアント」から、仕事が入った。
「びっくりしました!それも「ぜひ普通ちゃんにお願いしたい」って。人生初の指名ですよ、ほんっとうに嬉しかった」
露骨に避けていたチーフマネージャーは本人よりもっと驚いていた。

現場で再会したディレクターに、選んでくれた理由をたずねた。
「普通ちゃんを指名したら、マネージャーさんに”別のもっと上手いナレーターをすすめますよ”と言われたんだよ。正直ちょっと迷ったけどね(笑)でも、やっぱり一緒にモノを作っていく上では「情熱」を選びたくなっちゃったんだよね。俺たちは、お金を払って”上手いはず”のナレーターさんに来てもらう。でも、作品を作る上で本当に大切なことは、作り手達が『お互いを尊重して向かい合える人と』一緒に仕事したいってことかな」

その日の普通ちゃんは、「普通」以上のプレイができた。お互いの信頼がより良い作品作りにつながった結果だった。普通ちゃんはもう泣かなかった。

小さな芽。でも沢山の。

それからは普通ちゃんの快進撃がはじまった。タイミングをあわせたかのようにポコポコと「指名」の仕事が来るようになった。今までの積み重ねが芽を出し始めたのだ。
「こんな小さな仕事なのに、頑張ってくれたから。少しだけど協力できたらと思って」と、クライアントたちは言ってくれた。中には数年前にちらっと仕事しただけのクライアントもいた。わざわざ探し出して、連絡してくれた。

それらの一つ一つは小さい仕事。
でも「普通ちゃんでお願いします」と言われて現場にいくからには、大きな責任と、それ以上の充実感を感じた。

普通ちゃんを避けていたチーフマネージャーは、手のひらを返して、今では一押しのお気に入りとして候補に出してくれている。やがて事務所でもトップクラスの売れっ子になっていた。

”普通のこと”を、積み重ねていくマジック

インタビュー時の普通ちゃんの言葉は、確信をもったものの深みがあった。

『いま思えば養成所や事務所、そしてディレクターも、もたれかかる先だと考えてたんですね。でも与えるスタンスに立とうと頭を切り替えて、講義で言われていたたくさんの手法を出来る範囲でやってみたんです。私に理解できた一部だけですけどね。そうしたらスタッフとの距離がグッと縮まって仕事がつながっていったんです。事務所では私に指名で仕事が来るなんて、マジックだと思われてるかもしれませんね(笑)でも”マジック”のタネってすごく簡単で地味なことなんです。「長くプロとして生き残りたい」というプレイヤーの願いに近づく、という意味では”魔法”なのかもしれません(笑)」

プロナレーター普通ちゃん。
夢は「普通の視点で語る」ゴールデンタイムのナレーションだ。

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