2011年6月30日 ナレーターメルマガ171号より転載

ナレーター,ボイスサンプル空気が緩み始め、まもなく迎える春。
狼たちの猟りのタイミングがやってきた。小さなネズミを狩るのではないのだ。年に2度だけ訪れる大物たちの大移動!それを狙い野獣たちがうごめき出す、熾烈な戦いの始まりである。それはテレビ業界ではこう呼ばれる。『改編期』と。
それまでとは違う格別な空気が漂う。極上の匂いだ。

さあ獲物に集中するんだ!改編の狼よ!

3.11震災当日の夕暮れ時。余震に困惑しながら災害報道から目を離せないでいた。
そんななか小窓王が緊迫した空気を切り裂いたのであった!

小窓王「いまから…赤坂と新橋にいってきます!」
大窓王「なッ?!」
小窓王「スタッフにサンプルを届ける約束があったので…」
大窓王「むむむ…赤坂は16Fで、新橋は24Fがスタッフルーム…交通機関はもちろんのこと、すべてのエレベーターが止まってるが…それでも行くというのかッ?」
小窓王「ふ。約束は、約束ですよ。それに、こんな緊急事態にこそ私たちベルベッターズがお役にたてることもあるかと思うのです」
大窓王「うう…素晴らしいぞ小窓王よ、よくぞ言うてくれた、感動したッ!事務所には私が待機し全力で対応させてもらう。きみは前だけをみて行ってくれ!」
小窓王「うう…わかってくれますか社長…!最善を尽くしてきますっ!ふんがーっ!」

数時間後。小窓王は帰ってきたのであった。
小窓王「10Fでめげました」
大窓王「ガッツあるなって感心して損した(笑)」

しかし大窓王は知っていたのだ。何が小窓王を駆り立てているのかを。
実は今期、すでにいくつかのレギュラーが終わる気配をみせている。改編が始まる2ヶ月ほど前から、打ち切られる番組に次々と死刑が宣告されるのだ。この2ヶ月は生きた心地がしない。このまま何もないと消え去るのみ。それが業界の掟。春と秋4ヶ月の間。つまり1年の1/3は生きた心地がしないという、シビアなエッジにいる職業。それがマネージャーという狼の世界なのだ。

改編のラストスパートが迫っていた。その緊迫感が小窓王を駆り立てたのだ。


その狼はひっそりと草むらにひそみ、辺りをうかがっていた。
獲物がゆっくりと近づいて来る。この前はすんでのところ、あのいまいましいキツネたちに獲物を持っていかれたのだ。ああ、血が滴る生暖かい肉片を食いちぎる至福の瞬間…だが、いまは考えるのはやめだ。集中しなければ。向こう側には、巨体をゆらせてうろつく熊。それに微かなハイエナの気配。横取りが得意な連中だ。緊張が高まる。

メンバーたちの新作のボイスサンプル。売り込みのシミュレーションも繰り返した。少ない情報をかき集めてのリサーチ。その結果、改編のかすかな匂いをかぎつけ、局に張り付く。幾日かの張り込み。なかなか狙いのプロデューサーは姿を見せない。焦りがじりじりと身をこがす。
あわただしい局内。改編期特有の張りつめた空気。行き交うスタッフたちも小走りになっている。感じているのは自分自身へのプレッシャーから来るものなのか。それは分からない。

中堅のナレーターが通り過ぎる。おしゃべり好きで、いつも自慢話に付き合わされる。そんな人が、軽い会釈を交わしただけで足早に去っていく。その青ざめた顔は怒りと不安で満ちていた。長く続いたレギュラー番組が終わるのだ。長らく安定していた番組で安心しきっていたのだろう。幸運と不幸は交互にやってくる。人ごとではない。窓ガラスであわてて自分の顔色をチェック。

気配なく後ろに立っていたのは、大手の事務所ZZZの営業部長、木常田(きつねだ)だ。
「小窓ちゃ~ん。元気ぃ?で、最近調子はどうよ。あのコワモテ社長も元気なのかな(笑)そういえばイノシシなんたらってやってんだね。ウチのチェリーちゃんたちの仕事はもっていかないでよーお願いね(笑)そそ、お宅んとこの、あの番組終わるんだって。面白かったけど数字が”あれ”だったからしょうがないよね(笑)それで今日はどこあたりを狙ってるワケ~オレにもちょっとは情報分けてよ(笑)」

古いタイプの業界風を吹かす。一言一言がねちゃねちゃ、にたにたしてキモいヤツだ。しかも幾度も横取りの煮え湯を飲まされている。嫌ったらしく憎々しい…いや、手強いライバルだ。

張り込み数日。ようやく狙いのプロデューサーの姿が見える。が、足早にスタッフリームに駆け込んでいった。一瞬肩すかしをくらったがそれも想定内ではある。その後ろ姿のあわただしさは新番組の匂いをまとっている。嗅覚。すかさず食いつく。ここが勝負だ!

小窓王「あ、あの、今度の新番のナレーターなんですが…」
P「まだ不透明なんだよね」
小窓王「えーと、あの」
P「いまから会議だから」
小窓王「えと」
P「それじゃあ」

扉ばたーん。閉じた扉は再び開くことはなかった。あっさりと、あっけなく。とりつくしまもない。ここは無理な筋だったのか…照準を合わしていただけに、落胆がかくせない。他社のサンプルが散乱して置いてあったな。もしかして…。経験上こんな場合は、たいてい既に他社で決まってることが多い。胸が締め付けられる。出足は悪くなかったはず。頭の中で悪い想像の塊がからんからんと音をたてて回っている。そのまま夜の闇に溶けていくようだ。

夜になっても狼は地面に伏せていた。天空には星が瞬く。それはそれで美しい。たが、一つ一つの点にすぎない。想像力が星たちを星座にしていくのだ。狼は夢想した。それが美しい獲物に姿を変えるまで。

思考がからんからんと音をたてて空回りする。人影も少なくなった深夜の局で一人ふらふらと漂っていた。
そこに若手のディレクターが姿を現した。ほんとにひょっこりといった出現だ。彼とは低予算の細かな仕事ばかりだが、細く長く付合っていた。ここは部署も所属するチームも違うはずなのに。…何かがひっかかる。狼のジャブがはじまった。

小窓王「どうしたんですかこんな所で」
D「移動になったんですよ」
小窓王「移動って、もしかして新番組に?」
D「ええ。やることになっちゃったんですよ」
小窓王「!!どんな内容になるんですか?」
D「まだ未確定要素が多いんだけど、バラエティに大きく振るのかな」
いままでの番組枠の流れから予想していた展開とは違う。流れを外していた。
小窓王「ナ、ナレーターはどうなんでしょう?決まってるんですか?」
すかさずサンプルを手渡しする。
D「なんだか、アナウンサーでいくみたいですよ。予算無いみたいですし」

『がーん』狙いも予測も方向も戦略も外していたことを悟ると、ずーんと心が沈んでいく。徒労。『まあキツネにも取られなかったんだから』なぐさめにもならないが、そう思うしかなかった。…か、帰ろうかな…

その晩。

小窓王「やはり今期の番組作りは、先行きの不透明感から予算縮小の方向になってるようです。ナレーション界にも厳しい波がやってきてます」
大窓王「定期的な不況と予算縮小は避けられない。この業界だけでなく日本の全ての人にだけどね。でも同時に突破口も必ずあるものだ」
小窓王「でもこの状況だと、アナウンサーの起用が進みそうです」
大窓王「それも定期的にあること。そのうちナレーターに戻って来るよ。心しておくことは不況期には新人の起用が進むってことかな」

数日後、一本の電話が。
若手Dからだ。取り急ぎ局に向かう。

D「急きょスケジュールやなんだの都合で局アナが使えない事になって…ナレーターで行こうと思ってます。でも予算が限られていて…」
『不況下では新人にチャンスが飛び込む』の大窓王のロートーンの言葉が頭をよぎる。
小窓王「予算がないなら新人はどうでしょう。猪鹿蝶というレーベルがありまして…」
D「あ、この人、知ってる。Twitterでもフォローしてくれてるんだよね」

キターーー(゜∀゜)ーーーッ!!
若手とはいえ、よくやってくれていました。すかさずiPodのヘッドホンを差し出す。秘技、サンプル居合い斬り。以前使ってもらったメンバーから始まり、キャラクターボイスが使える、生読みが出来る、バラエティの華が出せるなど。少ない情報のなかで的確と思えるキャスティングを次々と繰り出す。一つ一つの点だったものが、はっきりと星座として描けてきた。誰がブースに座りどんな風に喋るのか。そのイメージが明確になってきたのだ。
狼は慎重に、だが深く食らいつく。そして仕留めるまで離さない。

その一撃で勝負はついた。
大量の新人ナレーターがレギュラーを獲得した。それは狼の描いた星座だった。

その夜、狼たちは夜空に浮かぶTV局に向かって遠吠えした。

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