2007年2月15日 ナレーターメルマガ43号より転載

プロデューサー,ナレーター交渉のつもりが、古狐プロデューサーの口車に乗せられまんまと丸め込まれた小窓王。
しかし大窓王の鋭い嗅覚で狐の正体があぶり出されて来た。小窓王はマネージャーとしてのプライドをかけ古狐と対決する!

『番組を降りるって、一体何様のつもりなんだ、ふざけるな!!』
プロデューサーの怒鳴り声と、机を叩く振動で、会議室の蛍光灯が激しく揺れていた。担当者が血相を変え、怒鳴り散らすのを冷静に見つめながら、私はこのあと続くタフな戦いに備え、ぐっと拳を握りしめた。

<狐狩り前日:事務所>

『相手も海千山千の古狐だ、なかなか困難な交渉になるだろう。だが保証金額とやらの矛盾点を突き、プレーヤーの声を伝えれば相手は反論出来ないはずだ。だが、そのあとが問題だな・・・』

ごくりと息をのんで大窓王の言葉を待った。
『手負いの獣は恐ろしいと、よく言うだろう。この担当者も話を聞いてる限り、追いつめられたらなりふり構わず反撃してくるタイプと見て間違いないだろう』
私はただうなずいていた。
『きっとこう言ってくるはずだ。”大手衛星制作との今後の取引をどう考えてるんだ”とね』
『どうすれば良いんですか?」と言おうとしたが言葉を飲み込んだ。

『あと考えられるのは現場の感情論や、不誠実だと言う道徳論をきっと唱えるはずだ』
ふたたび黙ってうなずいた。
『まあどちらにしても交渉のテーブルでは、よく発せられる脅迫的言語だ。だがこれから伝えるポイントを突けば大丈夫だ』
そういってにやりと微笑む大窓王の横顔は,鋭く光っていた。

私はまだこの時、大窓王の凄さをぼんやりとしか理解していなかった。この後の交渉で大窓王が予想した相手の反論が、激しい交渉の最中、ことごとく当たって行くとは、この時の私は知るよしもなかった。

<狐狩り当日:大手衛星制作>

『どうも,どうも、小窓王さんどうしたんですか急に。何か美味しい話でもあるんですか~』
こないだとはうって変わったように、担当者は能天気な明るい口調で話しかけて来た。
「いや、いや違うんですよ。実は・・」
『またまた、ベルベットさん調子が良いって聞いてますよ。今度飲みにでも行きましょうよ』
話しの腰を折られてしまい、話がまるで前に進まない。私は古狐と言う言葉を思い出し、自分の頬を強く2、3度たたき、ぎゅっと唇を噛み締めた。

「すいません、あらためて番組の事でお話に来ました」
『またまた、どうしたんですか小窓王さん。こないだ話したじゃないですか』
そういうと机の下の鞄を何やらあさりだしていた。
「ギャラの件です、まずはこれを毎月固定にして頂きたいんです」
『え~っとギャラの件は最低保証金額を設定していると、こないだも話したじゃないですか~少しでもプレーヤーの方、そしてスタッフ達に還元する為のシステムだと。それに小窓王さんも納得して頂いたじゃないですか。すいませんがギャラの固定は、みんなの事を思ってあきらめて下さい』
「その話はおかしいです。スタジオ代を浮かせてなんて今の現状を見て下さいよ。取り直しは多発するし、収録にも時間が架かるし。まったく矛盾してると思いませんか。」

鞄をあさっていたプロデューサーの手が急に止まった。
『私の話が嘘だとでも思ってるんですか』
さっきまでの明るい声が、低く沈んだ声に変わり、プロデューサーは机の下からゆっくりと顔を持ち上げた。鋭くこちらを値踏みする様な視線に、さっきまでの面影は無く、私はまるで九尾狐ににらまれている気分だった。
『小窓王さん何がどう、矛盾してるのか説明して頂けますか。そうじゃないと私も自分のスタッフへの思いを否定されてるみたいで、収まりがつきません』
おもわずプロデューサーの凄みに飲み込まれそうになったが、大窓王の言葉を思い出し用意していた資料を机の上に広げた。

「今までのスケジュールと、ギャラの振込金額です。見て頂ければ何を言いたいか納得して頂けるかと思います」
机に置かれた資料をプロデューサーはゆっくりと見つめていたかと思うと、急にこう切り捨てた。
『何のいたずらですか、小窓王さん何故この資料が正しいと言えるんですか。あなたは現場にも来てませんよね。こんな取り直しもしてませんし、プレーヤーの方が嘘の報告をしてるか、それとも気が変になったかの、どちらかじゃないですか』
あまりのねじ曲がった理屈に、私は一瞬言葉を失った。しかしここでひるんではいけない。集中力を保たなければ。
「まったく話しがかみ合いませんね。そうですか分かりました、矛盾してる、してないは一旦置いておきましょう。それよりも最初に話した通りギャラを固定にして頂けませんか。これは正当な交渉だと思いますが」

するとプロデューサーが急に立ち上がり、身振り手振りを交えて話しだした。
『私がどれだけスタッフたちの事や、プレーヤの方達の事を考えていると思うんですか、それを嘘だ、矛盾だと言われ、私が、私がどれだけ・・・悔しいか・・・』
プロデューサーが表情を変え、哀れさを誘うように声をしぼり出した。その変わりように、大窓王の”古狐に注意しろ”と言う言葉が、頭から離れなかった。早くとどめを刺さなければ・・・

「確認したところ、あなたがプロデューサーになってから、現場は劣悪な待遇になり、スタッフが辞め、作品のクオリティも低下していると聞きました。私は交渉のプロとして、この場に来ました。あなたの「思い」はとりあえず、私たちには関係ありません。今後仕事を続けるなら、まずは正当なギャラでおつきあいをさせて下さい」
『それは無理だって、さっきから言ってるじゃないか!だからなんなんだ、俺はプロデユーサーだ。出来ない物は出来ないんだよッ!』
狐は追いつめられ牙をむき、怒りに任せて、机を勢い良くたたいた。

「分かりました、ギャラの固定が出来ないなどという不明瞭な形では、今後おつきあい出来ません。今月限りで番組はおろさせて頂きます」
しばらくの沈黙が続いた。プロデューサーの顔色がみるみるうちに赤く変わって行くのが分かった。
「ふざけるな、番組を降りるって一体何様のつもりだ!それよりも、どういうつもりだこんなデタラメの資料を並べて、これじゃ脅迫じゃないか。黙って聞いていればいい気になって、いいかこれはもう私だけの問題じゃ済まされないぞ。大手衛星制作とベルベットの会社問題だ。今後のうちとの取引もただじゃ済まされないからな。もうお前じゃ話しにならない、社長を読んで来い社長を!今すぐだ!』

大窓王の予想通りの言葉だった。相手はなりふり構わぬ言葉で脅しを掛けて来た。幾度も交渉シュミレーションをかわした私には、彼の言葉は戯言にしか聞こえなかった。
「いいですか、私たちはもう番組をおりると言ってるんです。もう関係ないはずですよね。それを社長を呼んで来いですか、私の聞き間違いですかね。それよりも今すぐあなたの会社の社長を呼んで事務所に来て下さい。正式な謝罪を求めます。私が伝えた事は何一つ間違い無く、立証することも出来ます。それを脅迫と言われ黙っていられません」
プロデユーサーは若いマネージャーの反撃の言葉など予想もしていなかったのか、言葉を飲み込み黙り込んだ。

<狐狩り前日:シュミレーション現場>

『いいか。相手は反論出来なくなったら、脅迫言語で脅しを掛け来るだろう。きっと大手衛星制作との取引が今後出来なくなると言う脅し文句や、もしかしたら私に謝罪をするよう脅してくるだろう』
「え、それはマズいじゃないですか。今後の取引もあるし、謝りに行った方が良ですよ。だって謝らなかったら仕事が無くなるかもしれないし」
『いいか多くの事務所、多くのマネージャーがこの罠にはまるんだ。相手の会社全体と交渉させようとするんだ。そうではなく、一人の個人と交渉しろと言う事だ』
「一人の個人と交渉しろって・・・」
『いいか私が確認した現状では、ベルベットのプレーヤーはスポンサーや現場から大きな信頼を得ている。かたやプロデューサーの悪評。そしてギャラのよく分からない支払の問題。番組を降りるとなったら、一番の責任はプロデューサーだろうし、自分の会社でも問題になるだろう』
「う、確かに。考えてみれば私たちは真っ当な主張をしているだけですよね。それを脅してねじ伏せようとしているんですもんね・・・許せん!」
『そうだ。不用意に肩書きや、会社の大きさで相手を過大評価するのではなく、ちゃんと一個人としての本質を見抜き、誠実な対応には誠実な対応で応え、不誠実な対応には断固戦う。当たり前の事だ』
確かに聞けばその通りなのだが、今までの自分を振り返ると胸が痛い。
『それと、相手が言った事をそのまま相手に返してやればいいんだよ。脅し文句は、発している本人が言われると一番嫌な事だ。だからそれをそのまま相手に返せと言ってるんだよ』
そう言うと大窓王はニヤリとこちらを見て、微笑んだ。私は背筋にゾクゾクと来るものを感じた。

<狐狩り大詰め:大手衛星制作>

「あなたのプロデューサーとしての言動について、お互いの社長同士で話し合ってもらいましょうか?」
『ど、どういうつもりだ、急に社長を連れて来いとは、あまりにも失礼じゃないか。何を言ってるんだ!あわわ・・・』
狐がしっぽを巻いているのが分かる。さっきまでの勢いが、急速にしぼんでいた。

「言葉の通りです。難しいようでしたら、もう結構です。まあ番組も降りる事ですし、お付き合いも今後ないでしょう」
『急に番組を降りるなんてあり得ない。ナレーターごときが、そんな事が許されると思ってるのか,世間的にも道徳的にも非常識だ。それに次のキャスティングはそちらで用意するべきだろう』
完全に化けの皮がはがれていた。そう、やはり彼はプレーヤーも、スタッフのことも見下していたのだ。

「何か勘違いしていませんか。私たちプレーヤーサイドにも仕事を選ぶ権利が有るんです。不明瞭なギャラでは仕事は続けられません。それに次のキャスティングは私たちには関係ありません。それはあなたの仕事ですから」
『う・・・降りるって、そんな急に言われても困る。分かったギャラ固定の件は直ぐにでも支払うんで、これで今後ともお願いできないか』
「いいえ無理です。事実を伝えただけなのに、あれだけ罵られ、脅迫だと言われてこちらとしてもとうてい納得出来ません。それにキャスティングにも一ヶ月もの時間があるはずです」
『人としての誠意はないのか!』
狐の最後の切り札だった。

私は少し息をついてから切り出した。大窓王からいわれていたとどめの言葉を。
「まず、あなたの誠意を見せて下さい」

プロデューサーは困惑した表情を浮かべていた。
『誠意って、どういう事でしょう・・・』
「まずはこの仕事は今月で降ろさせていただきます。それから誠意についてご自身で考えて提案下さい。内容によってこちらで判断させて頂きます」
そう言い残すと私は颯爽と会議室を後にした。後ろではプロデューサーが呆気にとられた表情だった。

「狼」はプレーヤーのために、そしてマネージャーのプライドをかけて闘いきった。「狼」はその日の夜、大窓王とささやかに杯をあけた。

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