2007年1月11日 ナレーターメルマガ38号より転載

派遣会社,スタッフ

新番改編も一段落し、穏やかな日々が戻って来ていた。
しかしこの時は、これから起こることなど考えてもいなかった・・・

<10月中旬>

新番も順調に決まり、うららかな午後。
あんなに不安だった日々がまるで嘘のように、心が晴れ晴れしていた。
『いや~大窓王、新番も順調に決まったし、言う事無いですね、ははは』
『どうした、いつになく機嫌が良いじゃないか』
『そりゃ新番たくさん決まって行ったんですよ、嬉しくいないんですか ?』
『もちろん嬉しいさ、けどそれはもう過ぎた事だ・・・』
大窓王の返答があまりにも素っ気なかったので、私は一瞬言葉を失った

『え、新番が決まった事がもう過ぎた事なんですか?』
『そうじゃない、新番が決まって嬉しいのは分かるが、あまり気を抜くなと言う事だ』
腑に落ちない表情をする私を尻目に、大窓王は続けた。
『狼にも少しの休憩は必要だろう、それも分かる。だが油断しているこんな時こそ、息を潜めて罠を仕掛けている奴もいることを忘れるな』

その時は、大窓王が少し神経質なだけだと、やり過ごしていた。
大窓王の思いがけない優しさに、少しだけ目頭が熱くなった。と同時に改めて大窓王の鋭さに驚いていた。私のほんの些細な変化を見逃さない洞察力。プレーヤーたちや作り手にもその鋭い視線は注がれている。それがトップマネージャーである大窓王の強みなのだと思う。
大窓王は続けた。
『新番組と言う獲物はふとしたときに目の前に転がり出てくる。そのときのために狼の牙を研ぎすましておくんだ』

<11月末>

プレーヤーから予想していなかった話を聞いて、思わず驚いた。
『どういう事??それまったく聞いていないんだけど?!』

話を聞いてあわてて明細書を確認する。確かに今月と先月でギャラが違う。どういう事だ?それに現場のクオリティーが低く、待ち時間は長く、取り直しも多発しているとの事。ひどい時には現場に夕方入って、終わるのが朝みたいな事もざらに有ると言うではないか。
『取りあえず、先方に会って話してくるから』
そう言うと急いで事務所を出た。師走の町中を狼の気分で意気揚々と突き進んで行く。

「おはようございます。ベルベットオフィスの小窓王です」
『どうも初めまして、大手衛星制作の菰田(こもだ)です』
「今日伺ったのは、最初に聞いていた話と、内容が違うのでそのことを確認に来ました」
相手の顔が一瞬引き締まるのが分かった。そして細い目の眼光が鋭くなる。

『どういう事ですか、話が違うと言う事は!ちゃんと説明しましたよね!!』
プロデューサーは威圧的に声を荒げた。
「そうでしたっけ・・・?ギャラも、毎回振込金額が違うし、収録も取りこぼしがほぼ毎回有るってどういう事ですか・・・?」
『ギャラの件は、一番最初にプレーヤーの方にちゃんと説明してますよ』
確かにこの番組自体、複雑な経過で舞い込んだ仕事だった。変則的なことだが、なにかと直接プレーヤーに話がされることも多かったのだ。
「いえ、そのあと菰田さんと私でギャラは決めたじゃないですか!」
『おかしいですね、私は最初にプレーヤーの方にちゃんと条件を伝えましたよ。小窓王さん聞いていませんか?』
「う・・・聞いていません・・・」


さっきまでの、荒げた声が嘘のように急に担当者の声色が変わった。 そして勝ち誇ったように話しはじめた。
『私はプレーヤーの方に、ギャラが毎回異なる事をお話ししました。そしてマネージャーさんにその事を伝えてほしいとも話しました。小窓王さんとはその前提で、話したつもりです。金額も多分◯万円と言いましたよね』

頭の記憶を必死に巡らせてみた。確かにそう言えば、『多分』とは言っていた・・・ そんな私の態度をみてか、担当者はさっきよりも一段と声色を優しくゆっくり話しだした。
『私たちCSの番組は予算も限られています。プレーヤーの方にも十分お支払い出来ていないのは、私も十分承知しています』
私は、ただ頷いた。条件がそれほど良くないことは始めから承知していた。

『でもそんな十分払えない中でも、何とか皆さんに多くをお支払い出来ればと思っていいるんです。だからこそ毎月最低保証金を決めさせて頂いて、黒字が出た月にはそこにプラスをさせてお支払いさせて頂いてるんです。最低保証金よりも多い月も何回かは有ったと思いますよ』
「確かに多い月は有りましたけど、でもどうやってそんな調整をしてるんですか?」
『テープのダビングの本数を減らしたり、収録時間を短くして、スタジオ代を浮かせる涙ぐましい努力をしてるんです』
「テープのダビングやスタジオ代の節約?よく分からないけど・・・そ、そんな努力までしてお支払い頂いていたんですね」

『少しはご理解頂けましたか、有り難いです。それとご指摘頂いた、収録でご迷惑をかけている件、番組プロデューサーとして謝罪します。申し訳ないです。』
深々とお辞儀をする担当者の姿勢に私はすこし心を打たれていた。

『でも誤解しないで下さい。決してスタッフが無能だからではないんです。これも働いているスタッフに少しでも賃金を払えればと思うからなんです。多くのスタッフが派遣会社から派遣されてくるスタッフです。彼らは余りにも貧しく、可哀想で・・・だから人材を少しでも少なくして、浮いた分のお金を彼らに払うことが出来ればと思って、必要最低限の人数で回しているからなんです。ただなるたけこの事も善処してご迷惑をかけない体制を一刻も早く作れるようにします。私は、プレーヤーやスタッフの待遇を向上させていくことが、プロデューサーの務めだと思っています』

大手衛星制作から出て来た私は、すっかり気持ちが切り替わっていた。 業界のプロデューサーに、プレーヤーやスタッフのことをこんなに親身に考えている人がいるなんて思ってなかった。正直いって感動していた。

事務所に戻ると、大窓王がゆっくりとコーヒを傾けながら待っていた。
『どうだった、ちゃんと交渉出来たか』
私はさっき聞いた思いやりにあふれたプロデューサーの話を熱く語った。

『う~ん、何か臭うな』
そう言うなり大窓王は眉間にシワを寄せて黙り込んだ。
『え、臭うって何がですか?!』

次号、大窓王は狐の罠を見抜くことが出来るのか!
そして小窓王は罠から抜け出せるのか?!

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