HOME > マネージャーの視点 > 極細木スガ子の「きっぱり言うわよ!」 > 16話・事務所の深い落とし穴編(伍)「不都合な真実」

ナレーター専門,マネージャー,

2009年11月19日 ナレーターメルマガ126号より転載

営業,交渉『何かにぶらさがろうとする限り、天国なんてどこにもない』
それは「そこにさえいけば何とかなる」と信じ、ひたすら事務所所属を目指してきた私の人生観をすら覆してしまう衝撃だった。

さらに極細木は【養成所を経てある事務所に入って所属2年目。細かな仕事が2本しかなかった。でも辞めたいと思うが辞められない】という友人”セツコ”と事務所との間に”だめんずな心理”がある関係を解き明かす。

そして今宵私は、これまで見つめようともしなかった”不都合な真実”に気づかされることになるー

「仕事を突っ込むのが事務所の役割ではないのですか」
「仕事を突っ込むだけが事務所の業務じゃないんだけど」

「どうもこの件は僕からすれば、事務所に誠意が見えないって気がしてしまうんですが」
「プレイヤー視点だけで捉えるとそうかもしれないわね。でもこの問題は事務所にも言い分があるのよ。たとえば2年間セツコちゃんは”ただ待ち続けていただけ”でしょう?そしてその結果は”辞める・辞めない”という視野でしか問題を捉えられなくなっている。でも安直に事務所を辞めるということだけではないのよ」

「でも…仕事を突っ込むというのが、事務所の役割ではないのですか」
「仕事を突っ込む…それだけが事務所の業務じゃないんだけどナ」

極細木は、しかめっつらでゴキゴキと首をならす。
注がれた酒のせいか、それとも義憤か。
極細木の億劫な態度に、つい語気が荒くなる。
「そんな!2年も放ったらかしだったのですよ!セツコの情熱だってそりゃあ冷えますよ!」

隠れ家をモチーフにした店内。さっきまで大騒ぎしていた他の酔客たちがシンとしてこちらをみた。私はかまわず注文用の呼び鈴を叩いた。
「この焼酎、ボトルでおかわり!」
すぐにはいー、と威勢の良い女将がボトルを持ってやってきた。私たちの空気を察した女将は『今日のお客さんは皆さんお上品なお酒で、やんなっちゃうワ~w』と軽口で場をなごませてくれた。

プレイヤーが仕事をして”はじめて事務所の利益になる”の

「さて。放ったらかし…というかその前に。事務所はどうやって報酬を得るの?」
「それは…プレイヤーのギャラの一部が事務所に入るんです。声業界で多いのはギャラの2割~3割ときいてます」
「そう。プレイヤーが仕事をして”はじめて事務所の利益になる”の。そういう見方を忘れてない?」

キラリ、と極細木の眼鏡が光った。

「事務所に動いてほしい」と願うとき、忘れてほしくないのがこの”後払い状態”なのよ。事務所にとっては新人を売る作業は投資。投資にはなんらかの”担保”がいることは、銀行だって同じでしょう?」
「え…?!」
「うまく仕事がとれたとしても事務所の利益は2~3割にすぎないとも言える。本来はプレイヤーが8割頑張らなければ、成り立たない関係でもあるのよ。後払いであることを踏まえて、もっとプレイヤー側が可能性を”形で示して”くれる必要がある。それがプレーヤーが出さなければいけない担保。”ただ待ち続けて情熱が冷める”じゃ、ちょっと身勝手じゃない」

今宵、何度めかの衝撃が私を襲った!後悔の念と同時に、過ちにいたたまれない気持になる。
私は後払いで人を動かそうと願っていたのか…マネージャーが、私の担保なき理想を聞かされているその間にも、実はあらゆることにコストがかかっているのだ。

なぜこんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。無意識に”不都合な真実”から目をそらしていたとしか思えない。私がなにも提示しない状態で、誰が私のために何かをしてくれるというのだ…

『事務所への営業』にももっと改善できる余地があるはず

「セツコには事務所を動かせるだけのいわば”プレゼン”がなかったのですね。では私たちプレイヤーの想いは、どうすれば事務所に伝えることができるのでしょう?」
「まずはボイスサンプルを工夫すること。大きな仕事は”自ら取りにいかなければ”得ることはできない。テレビで活躍するプロたちの工夫の結晶であるサンプルに勝つには、時間、労力、お金、プライド…あらゆるものを投資して、そのクオリティを高めていくの。そうすれば伝わるものが確かにあるはず。
まずは事務所の横並びの中でどうやって目立てるかから始めてみて。その次はターゲットを明確にしたサンプルを作ってみるとか。たとえビジョンが描けない時だって、内容を新しくするだけでも鮮度を保つことはできる。存在を新鮮に魅せるには服や髪型を変えるだけでも効果はあるはず。そういったプレゼンがマネージャーをその気にさせるパワーになるのよ」

うなだれた時、ふと焼酎の瓶を見た。メニューにはない銘柄で、「常連」の私が来たといえば、女将がこっそりと出してくれているのだ。この店へ足繁く通う訳は、お店側の想いを”形”にして見せてくれるからなのかもしれない。

「『事務所への営業』にももっと改善できる余地があるはず。これまでのプレイヤーの多くは、ビジネスの観点が抜け落ちていて、身勝手な理想だけを語るにすぎないことだって多かった。自分でできることは何か?を考えて自分で動く。それがあって初めてビジネスプランを話し合える。まず『私はどういった商品で、セールスポイントはここ、弱点はここ』という部分をマネージャーとしっかり話し合える関係があれば、もっと売り易くなるはずなの」
「コミュニケーション不足で、マネージャーが営業・交渉に勝てるはずがありませんよね…」
「”ただ待っている状態”で仕事をとってこい、というのは身勝手だっていうこと。それだけじゃない。自分の人生を何もせず過ごしているツケは自分に跳ね返るのよ」

何かの感情が腹の底から渦巻いて出て来ていた。それを押さえつけるかのように、私は力まかせに呼び鈴を叩き続けた。隣席の酔客が再びシンとしてこちらを見ていることも気付かずに…

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