HOME > マネージャーの視点 > 極細木スガ子の「きっぱり言うわよ!」 > 15話・事務所の深い落とし穴編(四)「いま」

ナレーター専門,マネージャー,

2009年9月17日 ナレーターメルマガ122号より転載

声優アイドル『何かにぶらさがろうとする限り天国なんてどこにもない』
それは、そこにさえいけば何とかなると信じ、ひたすら事務所所属を目指してきた私の、人生観をすら覆してしまう衝撃。反論できない私は”己の人生”すら見えていなかった事に気づいたのだった。

事務所所属のみを目的にしてしまったプレイヤーたちに対し
「仕事のない名ばかりの所属の状態は【自分に損はなくチャンスがあるだけと思っている】のかも。でも実は人生の最も大切で取り返せないもの「時間」を浪費していることでもあるのよ」と言った極細木。そんなプレイヤーと事務所の関係を”だめんず”と評した。

そしてー。私は話す事になった。知人”セツコ”ちゃんについてー。
【養成所を経てある事務所に入った。所属2年目。でもこの2年でほんとうに細かな仕事が2本しかなかった】女性である。

この頃、彼女の心は揺れ動き始める。『なにかが、おかしい』

「その”セツコちゃん”って子は、仕事がこなかったことで事務所をやめたいと思っている…でも悩んではいるけど、何をするでもない。気持ちと行動が矛盾して、時間を浪費しては焦りと自己嫌悪の悪循環にいる。そんなところじゃない?」
「まさにそうです。なぜわかったんですか?」

「セツコちゃんの日々はだいたい見えてるわ。声優アイドルを目指せるでもない年齢で、ナレーターの仕事に出会った。『自分の喋りで視聴者が感動したらどんなにか幸せだろう』『あなただからと求められる存在になりたい』ナレーターならば誰もが持っている、純粋な憧れー。ひるむ心を奮い立たせて養成所にむかった。右も左もわからずレッスンについていく、充実した毎日。それなりの競争率で”まさか”の事務所所属!毎日どきどきして過ごした。でも一ヶ月待っても仕事がこない…半年待っても。彼女もなんとかしようとした。例えばすごく怖かったけど、営業をしてみようかとも思った。でも、事務所は個人営業禁止。責任を負うのでなんとか認めてほしいと直談判しても『営業なんてしたことないでしょう?今のままで問題あるの?』くらいの返事だったんじゃないの」
「問題ありますよ、現に仕事ができていないですから」
「そうね…だからこの頃、彼女の心は揺れ動き始める。『なにかが、おかしい』」

霊視か?!そう疑ってしまうほど、極細木は、会ったこともないセツコちゃんのことをピタリといい当てる!まさに私が彼女から聴いていた話と符号しているではないか!

せっかく厳しい所属審査に受かったのだもの

「個人営業の許可が簡単ではないことは、ワタクシにも理解はできるの。営業や経営の素人であるプレイヤーがトラブルを起こさないとも限らない。プレイヤーを計画的に売り込もうとしている場合もあるから、”無断”の場合は問題がおきる可能性もあるわ。でも個人営業を断る理由はもっと丁寧に答えてあげなければいけないのよ。彼女の人生の問題でもあるのだから」

「僕、昔一度アドバイスをしたんです。辞めたら?と」
「そう簡単に辞めることはできないのよ。違和感を感じているセツコちゃんでもね。”せっかく厳しい所属審査に受かったのだもの”、”この年で他の事務所に入れてくれる訳がない”、”数年かかったとしても花を咲かせたい”…こんな想いが気持ちや行動を押さえ込んでしまいがちなのよね」

この女・極細木は一体どうしたというのであろうか?!まさにまったく同じセリフが、セツコちゃんの口から漏れていた事実を私は覚えている!その時私は、殉教者然とした彼女に驚愕したのだが…っ?!
「知らずに全身に浴びていたのね、”優しさの毒”を」
「そんな…」

あの人たちもそうなんだから、私だけが駄目な訳じゃない

「仕事もなく営業もできない。やがて彼女は勢いがなくなっていく…そんな手の打ちようがない状態にも、さほど違和感を抱かなくなってくる。何かの折に”売れていない先輩がたくさん余っている”という客観的事実を前にしても『あの人たちもそうなんだから、私だけが駄目な訳じゃない』と自分を慰めるだけ…自分の人生なのに、恐ろしいことよね…」
「”だめんず”…。幸せな将来を夢見ていながら、”目先の充実感”を求めてハマる恋愛アリ地獄にそっくりです」
「そうね。入所前に抱いていた”夢”が、いつしか年に数回の小さな仕事を求めるために【いかにして長く事務所に居座るか】に変わっていることにも、うすうす気がついているのに。独り身の不安を理由に、どうしようもない男でもずっと惹かれてしまう状況と似てるわね」

ふ~と吹き出すタバコの煙に極細木の過去が垣間見えた気もした。そして私もその煙の中に自分の過去を見た。
かつて、養成所ジプシーを繰り返したころ、彼女と似たような心境だったに違いない。
『明日は、きっと明日は…』

でも違う。
未来とは、過去を背負った”今日”だけが孕めるものだろう。明日を変えたいなら、”いま”をこそ変えなければならないというのに。

いつしか、木枠の窓をびゅうびゅうと風が吹き付け、ガタガタとはめ込まれたガラスを鳴らしていた。それはセツコちゃんの心の叫びが、極細木に何かを訴えているかのようだった。
「今のセツコちゃんの心の動きはよく見えるワ。でもね問題の解決は、安直に事務所を辞めるということだけではないのよ」

次回極細木の霊視のごとき「目」がセツコちゃんの心を貫く!
10きっぱり目「事務所の深い落とし穴編(其の伍)」乞うご期待。

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